ドストエフスキー英語翻訳比較読書会 Introduction

読書会

―“彼”をもっと深く知りたいあなたへ

英語読書大好き、ヒデです。

今回は、僕が主催している中でも最も“危険で中毒性の高い読書会”――
ドストエフスキー作品の英語翻訳比較読書会をご紹介します。

とくに――
「文豪ストレイドッグス」でドストエフスキーに惹かれた方。
あの冷酷で知的で、どこか破滅的な魅力に心を掴まれた方。

その“原点”に、英語で触れてみませんか?

(僕が主催している別の読書会、源氏物語英語訳読書会についてはこちら)

この読書会は、ドストエフスキー作品の複数の英語訳を比較する読書会です。

そこでは途轍もなく深く面白い議論がなされており、ドストエフスキーがいかに優れた作家であったか、ドストエフスキー作品がいかに優れた作品であるかが再確認されているので、このブログでもそこでなされた議論の内容を紹介していきます。

ドストエフスキー四大小説

ドストエフスキーの作品では、四大小説と呼ばれる「罪と罰」「白痴」「悪霊」「カラマーゾフの兄弟」が非常に有名です。

僕は、「カラマーゾフの兄弟」の英語訳を読んだときの衝撃が凄すぎて、すっかり英語読書にはまってしまいました。

2026年3月時点で、4作品とも英語訳を読了済みですが、いずれも圧倒的な深みと面白さを兼ね備えた作品であり。読書会でこれを徹底的に深堀したいと考えていました。

英語に限らず、広く文学を愛好する大学生のコウキ君と知り合う機会を得、これを千載一遇の機会として、2025年6月、ドストエフスキー四大小説の英語訳を比較する読書会をスタートさせました。

最初に検討をしたのは、Crime and Punishment (「罪と罰」の英語訳)で、その検討を2025年12月に終え、2026年1月からは、Demons (「悪霊」の英語訳)を検討しおり、2026年3月時点では、Demons の読書会が進行しています。

今後は、The Idiot (「白痴」の英語訳)、The Brothers Karamazov(「カラマーゾフの兄弟」)と検討を進めて行きたいと考えていますが、果たしていつになることか。

既に検討を終了している Crime and Punishment における議論から紹介していきたいと思いますが議論の詳細は後々別の記事で。

メンバー紹介

まずは、簡単にメンバー紹介。当初、ドストエフスキー英語訳比較読書会はこの二人でスタートしました。

ヒデ(僕):男性。社会人。英語とフランス語の読書が大好き。海外経験なし。仕事で英語とフランス語を使うことはあまりない。ただただ英語とフランス語が好き。もともとは日本語の読書を愛好していた。たまたま村上春樹作品の英語訳を読んでみたところ、あまりの衝撃で以後英語でしか読書できないようになる。その後、ドストエフスキー、トルストイの作品を英語訳で読み、ロシア文学の真の面白さに気が付く。トルストイの「アンナ・カレーニナ」英語訳(英単語数約40万語)、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」英語訳(英単語数約35万語)を読了したところ、カタルシスが過ごすぎて、それを誰かに語りたいあまり、英語読書の面白さを共有できるメンバーを求める活動を開始する。

・コウキ:男性。大学生。日本文学を愛好し、太宰治や三島由紀夫の作品を愛読。大学1年生の時、英語の読書をしたいと考えていたところ、ヒデに出会う。当時、薄っぺらな英語初学者向けの本(名作文学の超簡易英語版)を読んでいたことをヒデに激怒され、ヒデにその本を投げ捨てられたうえ、かわりにHarry Potter and the Prisoner of Azkaban(「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」の英語原書、英単語数約10万語)を押し付けられる。ところが、これをあっさり読了し、以後、カズオ・イシグロ作品の英語原書、村上春樹作品英語訳を次々に読破し、ついには、ドストエフスキーの四大小説のうち、Crime and Punishment(「罪と罰」英語訳、英単語数約20万語)、Demons(「悪霊」英語訳、英単語数約30万語)をあっさりと読了するに至る。

ヒデは、現在、コウキを、英語読書界の「Demon」と恐れている。

ドストエフスキー作品を英語訳で読む意味

 ドストエフスキー作品の原書はロシア語なわけですから、ロシア語で読むことができればそれが一番いいに決まっています。

 僕も将来できればロシア語で読んでみたいと思っています。

 しかし、ロシア語は文字がそもそもキリル文字でなじみが薄く、これを読めるようになるには相当な労力と時間を要すると考えられます(それでもいつか挑戦したいと思っています)。

 たしかにロシア語で読めるようになりたいけれども、はやく中身を知りたい。

 そこで、英語訳なのです。ドストエフスキーの英語訳は、中学校で英語を学習している日本人であれば、ドストエフスキーを読みたいという情熱さえあれば、何ら問題なく、すぐに実現できます。

 英語訳などという面倒なことはいわず、日本語で読めば良いのではないかと思う方もいらっしゃると思います。

 しかし、これがダメなのです。

 残念ながら、ドストエフスキー作品の日本語訳のクオリティは非常に低いものになっている一方、英語訳のクオリティは日本語とは比べ物にならないくらい高いものになっているのです。

 これは、日本語とヨーロッパ系の言語との、言語的・文化的な違いに由来すると思われます。日本語はロシア語からあまりにもかけ離れた構造や文化的背景を有しており、その翻訳はどうしても不自然になります。したがって、日本語訳は、いくらまじめで有能な翻訳家がその翻訳をしたとしても、それが日本語である限り、どうしても限界があるのです。

 ところが、英語訳は、言語的な近さも相まって、相当正確な訳ができています。

 また、英語読者の数は日本語読者よりも圧倒的に多数であり、厳しい批判の目にさらされ、自然と高いクオリティが求められることになります。

 読者の質も全然違います。ロシア語を解する英語話者、英語を解するロシア語話者は世界にいくらでもいるため、低クオリティの英語訳はすぐに淘汰されます。

 ところが、日本人でロシア語を解する人はほとんど皆無であり、いくらひどい訳であってもなかなか淘汰されないのが実情です。日本語でしかロシア文学を読めない日本人はあっさりと低レベルな翻訳に騙され、オリジナル作品の真の面白さに気が付くことができないどころか、ひどい場合には、内容を誤解してしまうことになります。

 ロシア文学の定評ある英語訳を読んでおけばこのようなことは起こりえないのです。

日本語訳のひどさ

 つい先日、コウキ君と実施した Demons 読書会で参照された日本語訳に非常に面白い例があるので紹介します(ネタバレはしませんのでご安心ください)。

ヒデ:僕が読んでいる英語訳から次の部分を引用します。悪霊の主要登場人物である女性キャラクター(Liza)が、語り手である男性(Anton)に対し、語り掛ける場面です。

  “I know, I know,” she[Liza] said, “I’m very glad. Maman has also heard a lot about you. And let me also introduce you to Mavriky Nikolaevich, he is a wonderful man. I’ve already formed a funny idea of you[Anton]: you’re Stepan Trofimovich’s confidant, aren’t you?”

  I[Anton] blushed. (Demons translated by Richard Pevear and Larissa Volokhonsky, 1-3-7)

confidant については、コウキ君が読んでいる別の英語訳においても揺らぎはなく同じ単語が用いられていました。英単語としてはかなり難易度が高い単語で、洋書を読んでいても遭遇率は低いです。そのため、confidant は相当意図的に用いられた単語であり、この女性キャラクターが特殊な単語を用いて、男性キャラクターをある意味からかった場面と言えると思います。

そのうえで、二つの英語訳がこの単語で一致しているということは、原文のニュアンスを伝えるのに最適な単語がこれであることを示していると思われるのです。

そして、confidant は職業を示す言葉ではありません(実は、Antonについては職業が公務員であることが文脈上はっきりしています)。Stepan とAnton の関係性を示す言葉であり、「秘密を分かち合う親密性」を一言で示しているのです。

この単語について、参考のために3種の日本語訳を参照してみたところ、それぞれ「秘書」「相談役」「相談柱」(!?)という訳語を当てていた。

「秘書」という日本語は職業・役職を示す単語であり、明確に誤訳です。

「相談役」もいまいちです。どうしても職業的ニュアンスを感じる。英語では、advisor, consultant を想起してしまいます。

そのうえで、「相談柱」はあまりにも苦しい。こんな言葉は日本語として定着していません。いや、むしろ、「そんな日本語あるのか!?」と思わず言いたくなります。

僕は日本人の中でも相当日本語で読書をしてきたと自負していますが、生涯で一度もそんな単語に出会ったことはないのです。ニュアンスを伝えたいという翻訳家の努力は買いますし、誠意は感じますが、誠実な翻訳家をもってしてもこんな単語を使うしかないところに日本語の(欧米文学を知るための言語としての)致命的な欠陥を感じのです。

コウキ君、改めて、この点いかがですか。

コウキ:日頃、ヒデさんからロシア文学は英語訳で読むよう非常に強く言われており、「罪と罰」や「悪霊」、ツルゲーネフ作品はすべて英語訳で読んでいました。

そのため、ロシア文学の日本語訳は今回初めて参照したのですが、日本語訳のひどさというものを初めて体感しました。

ヒデさんが指摘した日本語訳は、どれも該当箇所の本来の意図にそぐわず、誤訳であるように感じられます。

しかし、いずれも一応権威ある日本語訳であるはずで、日本語のボキャブラリーではそれが精一杯ということでしょうか。

”confidant”は「腹心の友」や「気の置けない仲間」などのようにも訳せる気はしますが、一単語では何という言葉が当てはまるか、日本語では思い当たりません。

このような例をみると、海外文学を英語訳で読むことで、西洋人には備わっているが日本人には欠けている価値観を吸収することが出来ると思います。

次回予告

 このような観点から、僕とコウキ君とは、ドストエフスキーの四大小説を英語訳で読む読書会をスタートさせたのです。

そのうえで、せっかく英語が原文でない作品を読むので、僕とコウキ君とで異なる英語訳を読み、英語表現の違いを比較してみることにしました。

僕とコウキ君それぞれがどのような英語訳を読むようにしたのかについては、次回の記事で紹介します。

 ところで、最近、ドストエフスキーは、「文豪ストレイドッグス」(文スト)に登場するキャラクターとして人気を博していると聞いています。

 もしあなたが、文ストのドストエフスキーに惹かれているなら―

 ぜひ一度、英語で原作の世界に触れてみてください。

そこにいるのは、
もっと残酷で、
もっと知的で、
もっともっと圧倒的に魅力的なドストエフスキーです。

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