(AIが生成したイメージ画像を使用しています。)
このブログ記事では、『罪と罰』(Crime and Punishment)の第1部第1章についてネタバレを含みます。
はじめに
ドストエフスキー作品を英語訳で読むのが大好き、ヒデです。
前回の記事では、僕とコウキ君が読んでいる英語訳について、各特徴とそれぞれがなぜその英語訳を読んでいるかについて紹介しました。
ドストエフスキーのニュアンスを正確に知りたい人におすすめ
→僕の読んでいるP&V訳
Crime and Punishment translated by Richard Pevear and Larissa Volokhonsky(ヴィンテージクラシックス)https://amzn.to/41rAuJc
ドストエフスキーをわかりやすい英語で読みたい人におすすめ
→コウキ君の読んでいるマクダフ訳
Crime and Punishment translated by David McDuff (ペンギンクラシックス)https://amzn.to/4dDq3tl
今回の記事から『罪と罰』の内容についての議論を紹介していきたいと思います。
僕とコウキ君それぞれが気になる場面をピックアップし、英語訳を比較していきます。
文豪ストレイドッグス(文スト)でドストエフスキーに興味をもった皆さんが、『罪と罰』をとにかく楽しく英語で読むことができることを目指して、『罪と罰』が面白くなる場面をピックアップしていきます。
文ストのドストエフスキーファンの皆さんが英語訳を読みやすくなるように、英語で読み進めるコツにも触れていきます。
英語多読の一環としてドストエフスキー英語訳を手にとったという人もぜひ楽しんでください。
ドストエフスキー『罪と罰』を英語訳で読むコツ
とにかく内容を楽しむ!
これに尽きます。楽しく読めているのであれば、すべて正解です。
逆に、いくらすごい読み方をしていても、楽しんでいないのであれば意味がありません。
で、楽しむために重要なことを列挙しておきます。
わかるところに集中する、特に固有名詞
当然ですが、英語で読んでいるとわからない単語や言い回しに多数出会います。英語をお勉強としてとらえていると、わからないところに目が行きがちですが、英語読書、多読を楽しむのであれば、わかるところに集中することです。
わかるところがまったくないですって?
いや、あります。
固有名詞は絶対にわかるはずです。内容を楽しむのが優先なのですから、細かい単語は放っておいて下さい。それより、たとえば、「Raskolnikov」という単語が出てきたら、主人公「ラスコーリニコフ」にまつわる何かが起きているとわかるはずです。
学校のテストのために本を読んでいるのではなく、楽しむために読んでいるのですから、固有名詞の重要性の方が圧倒的に高いです。
十分ワクワクできないときはガンガン日本語訳を参照する
なぜ英語で読むのか?
日本語で読むよりも楽しくてワクワクするからに決まっています。
内容を楽しんでワクワクすることが最優先なのです。
たしかに、ドストエフスキー四大小説は英語云々の前に内容として難しい側面があることは否定しません。
ですから、英語訳で読む際、日本語訳を傍らに置いて参照するのも全く問題ないと思います。
内容を楽しむことが最優先なのですから、英語で意味をつかめなかった部分を日本語で補うのは全く問題ありません。
加えて、ドストエフスキーの日本語訳は非常にわかりにくい部分が多々あるのですが、英語を読むことで、わかりにくくなっている理由や、日本語訳の不正確さがわかるという副次的な効果も期待できます。
日本語訳を傍らに置いておきたいと思う場合は、入手しやすさと、比較的誠実な日本語訳であることから、次の二つの翻訳をお勧めします。日本語がわかりにくいと思った部分はぜひ英語訳と対比してみてください。
江川卓訳(岩波文庫)https://amzn.to/3OtsS5W
工藤精一郎訳(新潮文庫)https://amzn.to/4sD0gFy
英語訳との比較という観点から、亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)だけはおすすめしません。
中には、日本語を参照していて、これは英語読書・英語多読なのか?と思う人がいるかもしれません。
しかし、僕はあえて断言します。
1行でも英語のテキストを眺めたら、それはれっきとした英語読書です。
英語の先生が何と言おうと、英検1級の人がいくらさげすんで来ようと、僕は、英語のテキストを眺めた時点で、それを英語読書と認めます!
なぜなら、英語を読んでワクワクするのが英語読書だからです。
日本語訳を参照しようが何をしようが、英語のテキストを眺め、そこに日本語にないワクワクを感じたあなたは、僕の、英語読書仲間なのです。
スピードは気にしない
『罪と罰』は世界文学の最高峰に位置づけられる作品の一つです。
速く読んでどうするんですか?
何を急いでいるんですか?
じっくりと時間をかけて、ラスコーリニコフとその周囲の人物たちの生き様、行動を観察してやろうではありませんか。
英語で1行でも読み進めたのであれば、どんなにゆっくりであっても、あなたは、英語で『罪と罰』を読んでいることになるのです。
音は考えても仕方がない
いずれ別記事で紹介したいと思いますが、英語読書・英語多読を進めて行くために、英語の音がわかる必要がありますが、これは考えても仕方ないです。
音源を入手して聞いてしまいましょう。
僕にとって英語読書・英語多読の音源入手に絶対不可欠なのがAMAZONの提供するAudibleです。
辞書はワクワクしたときに確認する
わからない部分があれば原則として日本語訳を参照してしまえばいいです。
ただ、英語読書・英語多読をしている最中には、どうしても気になる単語が出てきます。
気になる単語があれば辞書を確認すればいいです。キンドルならワンタッチですし、グーグル翻訳であればそれほど手間もかかりません。
ただし、辞書を確認する際の基準もまた、楽しくワクワクするか否かです。
辞書で単語の意味を確認することで細かいニュアンスがわかり、ワクワクが倍増することが確かにあります。そういうときは辞書を通じてしっかりと好奇心を満たしてください。
くれぐれも、お勉強的に、わからない単語をいちいち全部辞書で確認するというのだけは避けてくださいね。
メンバー紹介
改めて、簡単にメンバー紹介。
ヒデ(僕)
男性。社会人。英語とフランス語の読書が大好き。ドストエフスキー、トルストイの作品を英語訳で読み、ロシア文学の真の面白さに気が付く。トルストイの「アンナ・カレーニナ」英語訳(約40万語)、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」英語訳(約35万語)を読了したところ、カタルシスが凄すぎて、それを誰かに語りたいあまり、英語読書の面白さを共有できるメンバーを求める活動を開始したところ、あっさりとコウキ君に出会い、ドストエフスキー英語訳比較読書会の実現にこぎつける。
ドストエフスキー作品の人間ドラマとしての側面に魅了されている。
好きなキャラクターは『罪と罰』のドゥーニャ(女性)、『白痴』のアグラーヤ(女性)、『悪霊』のリーザ(女性)。『罪と罰』に登場するスヴィドリガイロフはとても面白いキャラクターだと思っている(好きとは言っていない)。
コウキ
男性。大学生。英語・フランス語読書の ”Demon” 。
日本文学を愛好し、太宰治や三島由紀夫の作品を愛読。大学1年生の時、英語の読書をしたいと考えていたところ、ヒデに出会い、薄っぺらな英語初学者向けの本を投げ捨てられたうえ、かわりにHarry Potter and the Prisoner of Azkaban(「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」の英語原書、約10万語)を押し付けられ、以後、カズオ・イシグロ作品の英語原書、村上春樹作品英語訳を次々に読破し、ついには、ドストエフスキーの四大小説のうち、Crime and Punishment(「罪と罰」英語訳、英単語数約20万語)、Demons(「悪霊」英語訳、英単語数約30万語)をあっさりと読了するに至る。
ドストエフスキー作品の登場人物たちから語られる思想的な側面に魅了される。
好きなキャラクターは『罪と罰』のソーニャ(女性)、『悪霊の』のダーシャ(女性)。
『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフを興味深いキャラクターだと思っている。
『罪と罰』導入
この二人で、『罪と罰』英語訳における面白い表現をピックアップし、比較していきたいと思います。
が、その前に、『罪と罰』英語訳読書がいかに楽しく、ハードルが低い、誰でもできるものであり、文ストファンの皆さんも今すぐ『罪と罰』英語訳読書を始めることが出来るということを僕とコウキ君から紹介します。
『罪と罰』英語訳を読もうとした理由は?
ヒデ:『罪と罰』は、ドストエフスキーの四大小説中もっとも知名度が高い作品で、100年以上の時を超えて、なお、現在でも高く評価されている作品で、その面白さは折り紙付きです。
ただ、一方で、世界文学の頂点を形成する作品の一つであり、内容が難しいのではないか、ハードルが高いのではないかという心配もあると思います。
コウキ君は、『罪と罰』を読んだ際、既に、Harry Potter and the Prisoner of Azkaban, Never Let Me Goに加え、村上春樹の1Q84英語訳(なんと40万語もある大作!)も読み終えており、相当英語読書に慣れていたと思いますが、それでも『罪と罰』英語訳を読もうとすることには高い心理的ハードルがあったのではないでしょうか。
なぜ、『罪と罰』を英語訳で読もうと思ったのか教えてください。
コウキ:自分は太宰治の『人間失格』が大好きで、高校生の時から何度も読んでいるのですが、『人間失格』の中に「ドストエフスキー」や「罪と罰」というキーワードが登場していたので、以前から『罪と罰』には興味がありました。
せっかく読むならやっぱり英語の勉強にもなる方がいいと思い、英語訳に挑戦しようと思ったのです。
『罪と罰』英語訳の難易度は?
ヒデ:『罪と罰』を読み終えて、難易度はいかがでしたか。
コウキ:マクダフ訳は思っていたほど難しくはなかったです。もちろん知らない単語は大量に出てきましたが、意外にも、辞書を引かずに文脈から意味が推測できました。
やっぱりストーリーが面白かったので、英語自体の難易度に関係なく、勢いで読めた気はします。
ストーリーを楽しもう
ヒデ:僕にとって、ドストエフスキー四大小説はいずれも非常に面白い作品でした。もちろん、踏み込んで考えると解釈論的、思想的に難しい面もあるとは思いますが、まずは素直にストーリーを楽しめばいいと思います。
僕が勝手に四大小説をランキング付けするとこうなります。
わかりやすい面白さランキング
1位『罪と罰』 2位『白痴』 3位『カラマーゾフの兄弟』 4位『悪霊』
作品としての総合評価ランキング
1位『カラマーゾフの兄弟』 2位『悪霊』 3位『白痴』 4位『罪と罰』
この順位はまったくの独断と偏見であり、異論は大いに認めます。
いいたいのは、『罪と罰』はなによりもまず、面白いストーリーを楽しむことができるということです。
コウキ君も既に『悪霊』を読了しているので、『罪と罰』と『悪霊』を比較した際に異論があるのではないですか?
コウキ:もちろん、異論はあります。
『悪霊』では登場人物のセリフを通じて特殊な思想や主義がやたらと長く語られますよね?
正直、自分は、主義とか革命には全く興味がないので、そういったドストエフスキー作品の側面には読みづらさを感じます。
しかし、『罪と罰』には、『悪霊』と異なり、「~主義」云々はあまり出てこないので、個人的には『罪と罰』の方が『悪霊』より優れた作品だと思います。
ヒデ:『罪と罰』はまず、なによりストーリーがスリリングで面白いことに異論はありません。
これを楽しむべきです。
『罪と罰』では、惨劇が発生します。その犯人も最初からわかっています。
いわば倒叙ミステリーのような楽しみ方ができるのです。
いったいなぜその惨劇が発生するのか?
犯人の惨劇に至る行動、思考過程は?
惨劇後の行動、思考過程は?
こういったことに着目すると、俄然読書が面白くはかどるのではないでしょうか。
個性的なキャラクター達
『罪と罰』には個性的な多数のキャラクターが登場します。
主人公ラスコーリニコフはもちろんですが、それを取り巻く多数のキャラクターたちの個性を存分に楽しむとさらに読書がはかどります。
まずは、好きか嫌いかはこの際置いておいて、ラスコーリニコフというキャラクターを、一人の人間として興味をもって観察すると非常に楽しめると思います。
言っておきますが、ラスコーリニコフは世界文学を代表する主人公であり、それだけに超個性的です。その思考過程、行動は、並の人間より断然面白いと思います。
コウキ君、どうですか、どうすれば楽しく『罪と罰』を読めると思いますか?
コウキ:ラスコーリニコフだけではなく、他の登場人物も超個性的です。
まずは自分の好きなキャラクターを見つけて、そのキャラクターを中心にして物語を読むといいと思います。
ヒデさんが好きなキャラクターはわかりきってますけど。
ヒデ:ご指摘のとおり、僕はラスコーリニコフの妹である絶世の美少女ドゥーニャを愛しています。
「ドゥーニャがその後どうなる?」と考えるといてもたってもいられなくなり、勝手にページが進んでいきます!
場面をできるだけ鮮明にイメージする
ヒデ:それではいよいよ僕が気になった部分からピックアップしていきます。
以下、第1部第1章についてネタバレを含みます。
冒頭第一文です。およそ小説の書き出しは、作者が読者を引き込むために、最も力を入れている部分です。
小説を楽しく読み進めるには、まず、場面を出来るだけ鮮明にイメージすることが大事です。
『罪と罰』の冒頭は、場面説明から入りますので、ここをじっくり味わいましょう。
P&V訳
At the beginning of July, during an extremely hot spell, towards evening, a young man left the closet he rented from tenants in S——y Lane, walked out to the street, and slowly, as if indecisively, headed for the K——n Bridge.
「spell」が少し難しい使い方ですが(普通は魔法の呪文などの意味ですよね)、「短い期間」を意味する単語です。これがわからなくても、「July」「extremely hot」で季節感がわかりますし、「towards evening」で時間帯もわかりますから、「spell」はなんとなく読み飛ばせばいいのです。
この点、マクダフ訳はどのような冒頭になっていますか?
コウキ:マクダフ訳の方が説明がわかりやすいというか、イメージが湧きやすいと思います。マクダフは掌を指すような翻訳をしていますね。
マクダフ訳
At the beginning of July, during a spell of exceptionally hot weather, towards evening, a certain young man came down on to the street from the little room he rented from some tenants in Sー Lane and slowly, almost hesitantly, set off towards Kーn Bridge.
ヒデ:「spell」は一致しているのですね。そうすると、この「spell」がドストエフスキーの原語と相当近いイメージをもっているのでしょう。
人物について、「young man」はおおむね一致していますが、その住まいについて、早速、ペンギンクラシックスらしいわかりやすい表現がでてきました。P&Vが「closet」と表現していたところ、マクダフ訳は「the little room」と表現しています。
コウキ君、この点の印象はどうですか?
コウキ:「closet」ときいたら日本語のクローゼットをイメージしてしまいます。何となく、狭い場所であることはわかりますけど、「the little room」の方が親切でしょう。
ヒデ:マクダフ訳が親切なのは確かです。ただ、closet一言でその部屋の狭さ、狭さの質を含めて読者に想起させる点で、P&Vもなかなかオシャレではないでしょうか。
冒頭における主人公ラスコーリニコフの内面
主人公の若い男性は、金貸しの老女Alyona Ivanovnaに自らの名であるラスコーリニコフを名乗り、金を借りようとします。
僕が次にピックアップするのは、ラスコーリニコフが、大切な時計を質に入れたにもかかわらず、僅か1ルーブル半のお金しか借りることができなかった後に続く場面です。
内面について、次のような本人による独白があります。
P&V訳
“Oh, God, how loathsome this all is! And can it be that I…no, it’s nonsense, it’s absurd!” he added resolutely. “Could such horror really come into my head? But then, what filth my heart is capable of!…Above all, filthy, nasty, vile, vile!…And for the whole month I…”
Loathsome は「忌まわしい」という意味ですが、意味がわからなくても問題ありません。なにやら相当よからぬことを考えていることはその後の表現で分かります。なんとなく響きで相当不吉だと感じることもできたのではないでしょうか。
「absurd」は「理屈が通っていない、ばかげていると」などの意味合いがあります。英語書籍の超頻出単語です。試験には出ません!
ノンセンスという趣旨の言葉と重ねられており、相当奇妙なことのようです。
よっぽどおかしなことを考えていると思え、ラスコーリニコフに対する興味を掻き立てられます。
この点、ペンギンクラシックスはどうでしょうか。
マクダフ訳
‘Oh God! How loathsome all this is! And could I really , could I really… No, it’s nonsensical, it’s absurd!’ he added, firmly. ‘Could I really ever have contemplated such a monstrous act? It shows what filth my heart is capable of, though! Yes, that’s what it is: filthy, mean, vile, vile!… And for a whole month I’ve been…’
コウキ:マクダフ訳では「such a monstrous act」となっている場所が、P&Vでは「such horror」と訳されているので、P&Vだと、ラスコーリニコフが自身の考えに恐怖を抱いているとわかり、2つの翻訳は似ているようで、細部を見てみると違いがあるので面白いですね。
ヒデ:P&Vの「come into my head」(頭の中にやってきた)とマクダフの「have contemplated」(熟考していた)も相当ニュアンスが違うように感じます。
このニュアンスの違いが主人公ラスコーリニコフの読者に与える印象にどう影響するのか読み進めるのが楽しくなってきますね。
どちらの表現が皆様にとってよりワクワクする表現だったでしょうか。
まとめと次回予告
ここまで、『罪と罰』英語訳を楽しむ方法を説明してきました。
これから、もっともっとワクワクする表現が出てきます。
次回は第1部第2章に検討を進めます。
新たな登場人物の出現で、ラスコーリニコフのキャラクターや内面がどのように浮き彫りとなっていくのか。
文ストでドストエフスキーに興味をもった皆さん、これから、『罪と罰』の具体的英語表現を通じて、ドストエフスキーの恐ろしさが次第に浮き彫りになっていきます。
次回もとにかく楽しみましょう。


コメント