Never Let Me Go 5―The Third Impact―「A carer の真実」 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』スタイリッシュ英語読書会5

読書会

(AIで生成したイメージ画像を使用しています。)

【この記事には、Never Let Me Go Part 3, Chapter 19 までのネタバレを含みます。そのネタバレには、この作品における3つ目の重大なネタバレが含まれます。絶対に本文でPart 3, Chapter 19 まで読み進めてから以下の記事はご覧ください。】

英語とフランス語の読書が大好き、ヒデです。

前回の記事では、スタイリッシュ英語読書会の最初の課題図書である、カズオ・イシグロの Never Let Me Go について、Part 2, Chapter 14 末尾における衝撃―The Second Impact―について、タク君、コウキ君、ヒナさんとの議論を通じて紹介しました。

Never Let Me Go 4―The Second Impact―「彼女たちはどこから来たのか」 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』スタイリッシュ英語読書会4
スタイリッシュ読書会最初の課題図書『Never Let Me Go』の記事4。カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』英語原書読書会の記事4。第2部第14章において語られる本作2番目の衝撃的事実。

(スタイリッシュ英語読書会のコンセプトとメンバー紹介はこの記事を参照)

スタイリッシュ英語読書会 Introduction
英語読書をスタイリッシュに楽しむための読書会の導入。英語で名作を深く読み解き、語り合うことの楽しさを追求している。読書が好きで、とにかく英語を楽しみたいという人に最適な英語読書コミュニティ。

前回の記事では、Part 2, Chapter 14 末尾において、Ruth が感情を爆発させ、タブーを犯してまくし立てた内容、

――彼女たちが clone であること、その遺伝子の由来について彼女たちが認識していること――、

について、その衝撃的な内容を、読書会メンバーたちの受けた印象の比較を通じて、複合的に検討しました。

その後、本作は、Chapter 15 で、The Norfolk trip におけるTommy と Kathy の印象的なエピソードが語られ、Chapter 16 以後、The Cottages での残りの日々のエピソードが語られます。

Chapter 18 以後、Part 3 で場面と時間が変わり、Kathy はCarer となっています。

ここまで二つの衝撃により、その世界観が残酷で悲劇的な様相を呈してきていました。

さらに、僕たちは、今回扱うChapter 19において、これまで曖昧模糊としていたCarer の実態を突き付けられ、三度目の衝撃を受けることになるのです。

僕は、Never Let Me Go には全部で四つの衝撃的な場面があると考えており、この場面を勝手に、

The Third Impact

と呼んでいます。

The Third Impact を読んだ際の読書会メンバーの反応や、議論した内容を紹介していきます。

Part 2, Chapter 15 から Part 3, Chapter 19 までの簡単な振り返り

Part 2

Chapter 15 では、The Norfolk trip において、Tommy と Kathy が中古のカセットテープを見つける印象的なエピソードが語られます。Kathy の思い出にある、「あの」カセットテープです。

Chapter 16以後、Kathy の周囲が、次々とtrainingのために、去っていくようになります。

Tommy はノートに動物の絵を描き続けていました。Kathy とTommy はこれをHailsham 時代にMadameが見ていたら、はたして何と言ったのかと考えます。

The Norfolk trip 以来、微妙な関係となっていたKathy とRuth ですが、the churchyard で、Tommy との関係について語り合います。

Tommy がKathy をどう思っているのか。

そこには、真の愛を証明したカップルは、deferrals(延期)を得ることができるという考えが前提にありました。

Kathy は、Ruth の話にどう応じるのが適切かわからないまま、trainingを開始し、Chapter 17 末尾で、the Cottages を去ります。

Part 3

Chapter 18 から、Part 3 となり、Kathy は、a carer になっています。

The Cottages を去って、7年が経過していました。

Kathy は、Hailsham と the Cottages で共に過ごした、carer の Laura と再会します。

Ruth の the first donation が思わしくなかったこと、Hailsham が閉鎖されたことを聞きます。

Kathy は、carerとして、特別で、自ら担当するdonorを選ぶことができるようになっていました。

Lauraに示唆され、Kathy は、自らRuth のcarerになります。

Kathy は、噂になっていた、the boat を見に行こうとRuthを誘い、さらに、Tommy も誘うことを提案します。

The Third Impact 場面設定

こうして、Chapter 19、Kathy と Ruth は、Tommy が、donor として入所している Kingsfield のrecovery center を訪れ、Tommy との7年ぶりの再会を果たします。

Kathy, Ruth, Tommy は、the boat を見ました。

そこで、the Cottages で一緒で、ともにthe Norfolk tripに出かけた、Chrissie が、the second donation 中にcompleteしたことが話題となります。

Ruth は、carerであるKathy が、complete について、どのように感じるかを意見することにいら立ちを覚えます。

これが、The Third Impact の場面です。

For a moment we were both looking at Tommy, but he just went on gazing at the boat. Then he said:

Tommyは、自分はCarerとしては優秀ではなかったが、Donorとしては優秀だと語ります。

一方でRuthも、Carerとして十分働いたからDonorになることを受け入れられた、と語ります。

初めて読んだとき、僕は正直、この場面に非常に大きな衝撃を受けませんでした。

しかし読書会での最初の反応はこうでした。

The Third Impact を読んだ感想

コウキ

「正直に言うと、僕はこの場面で特に衝撃を受けませんでした。

ここまで来ると「donor」や「donation」が何を意味しているのかはもう分かっていますから。

ここは、むしろTommyやRuthの近況報告みたいな印象でした。

「ああ、Tommyはもうdonation を経験しているんだな」

「RuthはCarerを五年やったのか」

その程度の受け止め方だったんです。

だから、ヒデさんに、The Third Impactと言われても、最初はピンと来ませんでしたね。

タク

僕も同じです。

Chapter 7のMiss Lucyによる発言のような爆発的な衝撃はありませんでした。

既に世界のルールはある程度分かっていますし、

「そうだよな、carerやdonorは、きっとそういう人生を送るんだよな」

くらいの感じで読んでいました。

むしろ静かな場面なので、読み飛ばしてしまいそうな箇所でした。

ヒナ

私もそれほどショックな場面とは思いませんでした。

TommyとRuthのその後が語られている場面ですよね。

Carerを何年やったか。

Donorになってどう感じたか。

その経過自体は、それまでの情報から考えても十分あり得る内容でした。

Carerについても、Chapter 19までに示された情報からある程度想像できていましたし、この箇所はある種、「答え合わせ」のような印象でした。

Carer についての情報整理

ヒデ:ぼくは、The Third Impact によって、carerについて大変な衝撃を受けました。

しかし、なんと、コウキ君、タク君、ヒナさん、三人そろってとくに衝撃はなかったということで、

これは、もしかすると、僕だけが若干うがった見方をしてしまっているのかもしれません。

三人とも僕が知る限りこれ以上ない読書家達で、その読解力は折り紙付きですから。

僕の読み方が偏っているにしても、ここでいったん、carerの情報を整理することは有益だと思います。

冒頭からPart 1 の Carer

実はCarerという存在は、作品冒頭から登場しています。

Chapter 1でKathyは自分について、

「私は優秀なCarerだ」

という自慢をしていたように見えます。

(詳しくはNever Let Me Go 2 の記事も参照してください。)

Never Let Me Go 2 ―冒頭第1段落の違和感―カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』スタイリッシュ英語読書会2
スタイリッシュ読書会の最初の検討課題図書 Never Let Me Go (カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』)について、最初の議論。冒頭第一段落の有する様々な違和感。語り手の名前や経歴、donation の意味、この段落の有する雰囲気などから、カズオ・イシグロの英文の有する深みを検証。

donorを扱う仕事であり、その状態には、

「agitated(動揺している)」

「calm(落ち着いている」

などの分類がありました。

しかし、その仕事内容についてはほとんど説明されません。

読者は長い間、carerという字義に照らし、

「介護士のような仕事かな?」

程度にイメージしていました。

Part 1では詳細な説明は一切ありません。

Part 2 以後

Part 2に入るとCarerになるためのtrainingが始まったことが語られます。

しかし、それでも仕事内容は曖昧なままです。

そして読者は、The First Impact, The Second Impact を経て、少しずつ気付き始めます。

Carerとは何なのか。

そのうえで、Part 3 に入り、carerが多数の recovery center を忙しく行き来していることがわかり、その実態が見えてきました。

ヒデの疑問

疑問1:なるべく長く生きるには?

彼女らの運命は定まっていますが、それでも、少しでも長く生きたいと思っているように思えます。

では、長く生きるにはどうすればいいでしょうか。

Donation の回数について見てみると、the fourth donation までしか出てきません。The fifth は存在しないのです。

これまでの文脈で、the fourth には非常に特別な意味が込められていたように思えます。

すでに、completeが生命活動の終了であること、彼らに対しては、意図的にdeathという表現が用いられないことがわかっています。

おそらく、多くとも、the fourth donation で、completeするということなのでしょう。

ということは、生きながらえるには、the fourth donation を少しでも先延ばしにする。

donation の開始を少しでも先延ばしにしたい。

そして、彼女達の役割は、carerからdonorになるという順番は決まっているようです。

ということは、

「なるべく長くCarerを続ける」

これが、より長く生命活動を続けるには必要なのです。

Donorになるのが遅ければ遅いほど、生きていられる期間が長くなる。

実際、Kathyは非常に優秀なCarerとして長期間活動しています。

疑問2:長く生きるとどうなる?

ところが問題があります。

Carerを続ければ続けるほど、多くのDonationを目の当たりにすることになります。

そして多くのCompleteを見届けることになります。

仲間が次々と消えていく。

何年もそれを見続ける。

その精神的負担は想像を絶します。

むしろ、

「もう見たくない」

「自分も早くDonorになりたい」

と思ってしまうかもしれません。

Ruthの

five years felt about enough for me

という言葉は、そうした疲弊を示しているようにも読めます。

疑問3:なぜこんな仕組みなのか?

そもそもなぜCarerが必要なのでしょう。

普通の看護師ではだめなのでしょうか。

ヒナの意見 

私には、

Carer という存在、

Carer を経て Donor になるというシステムが、徹底して、

より良い臓器提供のため、

という視点により仕組まれていると思えてなりません。

まず、ここで思い至るのは、

Donorに本当に寄り添えるのは同じ運命を背負った者だけなのではないか、

ということです。

Normalな人たちはDonationを経験しません。

Donationへの恐怖も理解できません。

けれどCarerたちは違います。

自分も近い将来Donorになる。

だからこそDonorを落ち着かせることができる。

安心させることができる。

そして精神状態が安定すれば、臓器提供にも良い影響が出るかもしれない。

もしそうだとしたら。

Carer制度は、徹頭徹尾、

良質な臓器提供のために設計されたシステムなのではないでしょうか。

ヒデ:確かに、ヒナさんの意見は、ここまでの流れに照らし、非常に自然な解釈だと思います。

加えて、もう一つ、Carer の視点を検討するに際して、重要な視点があるのですが、それは、現時点では、一旦保留にしておきましょう。

ここまでの検討を経て、読書会メンバーの感想は次のように変化しました。

あらためてThe Third Impact の感想

コウキ

いわれてみると恐ろしすぎます。

僕はヒデさんの疑問を聞くまで、この場面に何の衝撃も感じていませんでした。

でも改めて考えると、

Tommyは、早くDonorになった、すなわち、長くCarerを続けることができなかった者の悲哀を、

Ruthは、長くCarerを続けた者の苦しみに加えて、

the first donation のひどさを通じて、donationが始まるともたらされるものを、

それぞれ象徴しているように思えてきました。

しかもカズオ・イシグロは、それを一切説明しない。

読者に「怖いでしょう?」とも言わない。

ただ会話だけを置いていく。

そこが本当にすごいと思います。

タク

状況を整理すると、じわじわと恐ろしさが伝わってきますね。

これは僕も、この読書会に参加していなかったら確実に読み飛ばしていました。

いや、たぶん今でも大量に読み飛ばしていると思います(汗)。

The Third Impactには、Miss Lucyの告白みたいな爆弾はありません。

でもよく考えると、もっと、もっと怖い。

読者が慣れてしまったところに、

「そういえばこの世界おかしくない?」

という情報をさらっと置いていく。

真綿で首を締めるような恐怖があります。

ヒナ

改めて考えてみると、本当に残酷な世界観ですね。

CarerもDonorも、結局は同じシステムの中に組み込まれています。

そしてそのシステムは、おそらく良質な臓器提供を最大化するために設計されている。

私が怖いと思うのは、

Kathyたちがその状況に激しく抵抗していないことです。

むしろ、当然のこととして受け入れている。

もちろん苦しんでいます。

悲しんでもいます。

でも表現だけを見ると、

「仕事が大変だった」

「もう五年やったから十分かな」

という普通の社会人の会話にも聞こえてしまう。

その日常性がものすごく怖いです。

ヒデ

僕はこの作品を初めて読んだとき、

The First Impact すなわち、Chapter 7 におけるMiss Lucyの発言が、この作品最大の衝撃だと思いました。

しかし、何度も読み直してみると、このThe Third Impactの方が恐ろしく感じます。

なぜなら、ここに、この世界を形作っている人間たちの傲慢さ、残酷さが象徴されていると思うからです。

Carer としてより良い活動をするためのインセンティブ=長く生きる

donor として臓器提供をすすんで行うようにする=多くのcompleteを目の当たりにさせる

よりよい臓器提供のためによくできたシステムに思えますが、

実際のそのシステムの内側に生きる者たちの淡々とした生き様を目の当たりにすると、その社会システム自体への強い疑問と嫌悪感を感じずにはいられなくなるのです。

まとめと次回予告 The Fourth Impact ― The Final Impact

Chapter 19で語られたThe Third Impactは、たしかにこれまでの二つの衝撃と比較したとき、それほど破壊的な衝撃ではなかったかもしれません。

しかし、作品世界の構造を静かに浮かび上がらせる、極めて強烈な衝撃だったのではないでしょうか。

いよいよラストが近づいてきました。

ここまで三つの衝撃を検討してきましたが、これら以上に衝撃的なことがまだあるのか。

それが、あるんです。

四つの衝撃のなかで、最大級の衝撃が、まだこの先に待ち受けているのです。

第22章には、次の文章で始まる長い段落があります。

‘Whatever else, we at least saw to it that all of you in our care, you grew up in wonderful surroundings.’

初めてこの説明を読んだとき、あなたは何を感じたでしょうか。

ここで、最後にして最大の衝撃がやってきます。

僕は、これを、勝手に The Fourth Impact と呼んでいます。

次回、Never Let Me Go 6では、 The Fourth Impact ― the final impact について、読書会メンバーとの議論を紹介していきます。

ぜひ、Never Let Me Go をカズオ・イシグロの手による英語原文で、Chapter 22までを読んで、次回の記事をご覧ください。

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