Never Let Me Go 4―The Second Impact―「彼女たちはどこから来たのか」 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』スタイリッシュ英語読書会4

読書会

(AIで生成したイメージ画像を使用しています。)

【この記事には、Never Let Me Go Part 2, Chapter 14 までのネタバレを含みます。そのネタバレには、この作品における2つ目の決定的なネタバレが含まれます。絶対に本文でPart 2, Chapter 14 まで読み進めてから以下の記事はご覧ください。】

英語とフランス語の読書が大好き、ヒデです。

前回の記事では、スタイリッシュ英語読書会の最初の課題図書である、Kazuo Ishiguro の Never Let Me Go について、Part 1, Chapter 7 における衝撃―The First Impact―について、タク君、コウキ君、ヒナさんとの議論を通じて紹介しました。

Never Let Me Go 3―The First Impact カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』スタイリッシュ英語読書会3
Never Let Me Go3 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』英語原書読書会の記事3。第7章において語られる本作1番目の衝撃的事実。

(スタイリッシュ英語読書会のコンセプトとメンバー紹介はこの記事を参照)

スタイリッシュ英語読書会 Introduction
英語読書をスタイリッシュに楽しむための読書会の導入。英語で名作を深く読み解き、語り合うことの楽しさを追求している。読書が好きで、とにかく英語を楽しみたいという人に最適な英語読書コミュニティ。

前回の記事では、Chapter 7において、Miss Lucy によって語られた、Hailsham のStudents の存在意義について、読書会メンバーたちが受けた衝撃を紹介しました。

ところが、衝撃を受けたのは僕たち読者だけで、Kathy, Tomy, Ruth といった肝心の登場人物たちの平穏な雰囲気にはあまり変化が生じておらず、その後も淡々と物語が進んでいきます。

Chapter 8 からChapter 9 にかけて、Kathy 達のHailsham 最後の日々が淡々と語られるのです。

そこには、若干の人間関係のもつれが生じていますが、あくまで、10代の学生時代にアリがちなノスタルジックで甘酸っぱい思い出が語られているに過ぎないように思われます。

しかし僕たち読者は、The First Impact を知ってしまったのです。

Hailsham の思い出は、平穏に見えるからこそ、かえって不穏に見えてくるのです。

読み進めるほどに謎は深まり、「この世界はいったい何なのか」という疑問が一層深まっていきます。

Chapter 9 でKathy 達はHailsham を去り、Chapter 10 からは、Part 2として、舞台が The Cottages に移ります。

そして今回扱うChapter 14の末尾部分で、再び僕たち読者にとって決定的な衝撃が訪れます。

僕は、Never Let Me Go には全部で四つの衝撃的な場面があると考えており、この場面を勝手に、

The Second Impact

と呼んでいます。

The Second Impact を読んだ際の読書会メンバーの反応や、議論した内容を紹介していきます。

Chapter 7からChapter 13までの簡単な振り返り

Part 1

Chapter 7 における衝撃は、読者にとって衝撃的だっただけで、その後も、Hailsham における、Students の生活に大きな変化はありません。

Students は16歳でHailshamを去ることになります。

Chapter 8 では、Kathy 達も16歳に達しており、いよいよHailshamを去る日が目前に迫っていました。

そんななか、Tommy とRuth の関係が男女の関係に発展し、Kathyも男女交際するようになっていました。

しかし、Tommy とRuth は別れるに至っており、Kathyの男女交際もあまりうまくいきませんでした。

こうしたエピソードは学生時代の終わりにありがちな甘酸っぱい思い出に感じられます。

Part 2

Chapter 10 からは、物語の舞台がThe Cottages に移ります。

田舎の農場らしき、牧歌的雰囲気のある場所です。

Hailsham を去ったStudents は、様々な場所に移りますが、Kathy, Ruth, Tommy は同じThe Cottages で生活することになりました。

Hailsham における、gurdians のようなKathy 達を管理する存在はいません。

ただ、veteransと呼ばれる年長者たちがいます。

穏やかな日々が流れていくように見えます。

しかし、平穏な空気のなかで、「carer」にまつわる何かが動いていることを感じさせ、読者を不安にさせます。

さらに、「possibles」という概念が登場します。

自分たちのモデルとなった存在がどこかにいるのではないかという考え方で、自分のPossible を見つけたいという、一種迷信じみた考え方もあります。

このような概念が出てきた時点で、読者には嫌な予感しかありません。

そして、いよいよ、Kathy, Ruth, Tommy がノーフォークへと出かける、「The Norfork trip」の思い出が語られます。

The Second Impact 場面設定

Ruth は、the Norfork trip に際し、自らの Possible を見つけることに期待をかけていたようですが、それが自分のPossibleでないことがわかり、意気消沈します。

Tommy とKathy はRuth を慰めようとしますが、Ruth はかえって苛立ち、感情を一気に爆発させ、次の一文で始まる段落、すなわち、The Second Impact に至るのです。

But she just carried on:

この段落を初めて読んだ際の読書会メンバーの反応はこうでした。

コウキ cloneの衝撃

Chapter 7 におけるThe First Impact を読んで以後、不安は募るばかりでした。

Part 2 に入って、Possibles という概念が語られた時点で嫌な予感はしていました。

それでも、改めて、正面から、「clone」という単語が使われ、衝撃でした。

この部分を機に、さらにページターナー感が高まり、読む速度が加速したと思います。

タク タブーを犯した Ruth の痛み

やっぱりそうだったか、という感覚でした。コウキ君の言う通り、改めて正面から言われるとショックですね。

しかも、Kathy の反応からすると、彼女たちにとって、この話題はタブー中のタブーだったように思います。

あえてタブーを犯したRuth がどれだけ失望していたかのか、

裏を返すと、Ruth が自分のPossibleの存在、その存在を通じて自分を肯定したいという希望にどれだけの期待をかけていたかを考えるととても切なくなりました。

ヒナ つまりみんな認識していたということ

私にとってもこの部分は衝撃的でした。

ただし、それは、彼女たちの存在が「a clone model」であることが判明したからではありません。

Ruth は、自分たちのモデルは社会のゴミなのだとまくしたてます。

浮浪者。

依存症。

売春婦。

果ては、犯罪者。

自分たちのモデルを探したいなら、高級住宅街ではなくゴミ箱や下水の中を探せばいい――。

Ruth は確かにタブーを犯してあえてまくしたてているように見えます。

しかし、これがタブー視されているということは、Kathy たちの間で実は共通認識として、これが認識されていたということです。

Kathy, Tommy, そしてRuthが自分たちの出自について、こういう認識をもって生きてきたということが衝撃だったのです。

Possibles という幻想にすがりたかったRuthの想いを考えるととても切なくなります。

ヒデの疑問 これは真実なのか

コウキ君、タク君、ヒナさんご指摘のとおり、この部分は様々な意味で衝撃的です。

一つ確かなのは、Kathy, Tommy, Ruth 三者ともRuth の発言を事実として認識したうえで、それをタブー視していたようだということです。

そうすると次に、The Second Impact において語られた内容が真実なのかが気になります。

この点は皆さんどうでしょうか。

コウキ どうせなら優秀な遺伝子がいいのでは?

いや、さすがにこんなことはないのではないでしょうか。

せっかく、臓器提供の為にクローンを造り出すというのであれば、どうせなら優秀な遺伝子の方がいいと思うのですが。

スポーツ、学業、社会的に成功した、何なら、偉人の遺伝子を大量生産した方がいいのではないでしょうか。

そうすると実はKathy たちのオリジナル遺伝子の持ち主は結構すごい人たちなのではないでしょうか。

タク 普通は自分の遺伝子なんて提供したくない。

普通の人は自分の遺伝子を提供したくないと思います。

僕だったら、自分の遺伝子を利用した、自分そっくりのクローンがどこかにいるなんて、絶対嫌です。

まして、自分の遺伝子をもった自分の複製が臓器提供に利用されるなんて、正直とんでもないという感覚です。

だから、社会的に低い地位の人から集めているという話には妙な説得力があります。

ヒナ 医学的にみて自然だから真実?

私は、本当だと思います。

この世界ではクローン生成のために大量の遺伝子が必要なはずです。

臓器提供するにしても、遺伝的多様性は重要と思えるからです。

コウキ君の言う通り、偉人が遺伝提供する場合もあったかもしれませんが、大量供給のことを考えると、本人の意向とは無関係に健康な遺伝子を集めている可能性が高いと思います。

また、Ruth の次の発言もリアリティがあります。

just so long as they aren’t psychos.

サイコではない、社会の下層の人たちから遺伝子を集めていることが示唆されています。

たしかに、サイコパスには遺伝的要因があると言われています。

そうすると、サイコから、クローンの為の遺伝子を集めるのは危険であり、サイコを除くというのはとても合理的に見えます。

逆に犯罪者であっても、健康であれば遺伝的には問題ありませんよね。

まとめと次回予告

クローンが存在するということは、必ず、元になった遺伝子があるはずです。

では、その遺伝子は誰のものなのか。

どのようにして集められたのか。

なぜ、このようなことが社会で許容されているのか。

The Second Impact は、Kathy 達の存在がcloneであることが直接語られた衝撃に加え、さらにさらに深い疑問を僕たちに投げかけます。

Never Let Me Go は、ともすると、「臓器提供」「クローン」という情報だけを切り取られ、設定状況の特殊性のみが強調して語られたうえ、エンターテイメント小説として今一つ面白みに欠けると評価をされがちです。

しかしながら、本作は、ここまで二つの衝撃を検討して明らかなとおり、単に「臓器提供」「クローン」という概念が意外で面白いという話にとどまるのではないのです。

たしかに、「臓器提供」「クローン」は特殊設定として極めて有効に活用されています。

しかし、そこで最も重要なのは、その特殊設定により、登場人物たちはどのような状況に置かれ、何を感じ、何を考えたのか。

いったい何がこのような特殊な状況をもたらしたのか。

特殊設定からもたらされる問題設定の深みこそがNever Let Me Go 最大の魅力なのです。

そして、その魅力は、カズオ・イシグロ自身の手による、英語原文でなければ決して味わえません。

次回、Part 3, Chapter 19

僕は、そこでさらに大きな衝撃を受けました。

彼女たちが就く役割。

冒頭でKathy が20歳の頃から続けていることが示されていた役割。

Carer

それが何を意味するのか。

その実態とは何なのか。

読めば読むほど、優しく穏やかで美しい文章の奥に潜む人間の傲慢さ、残酷さが驚くべき鮮烈さをもって読者に迫ってきます。

Part 3, Chapter 19 に

For a moment we were both looking at Tommy, but he just went on gazing at the boat.

で始まる段落があります。この段落を含めた4つの段落で語られる内容。それが、

The Third Impact ―― Carer の真実

なのです。

是非、Never Let Me Goを英語原書でChapter 19まで読み進め、次回の記事をご覧ください。

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