Never Let Me Go 6 The Fourth—the Final—Impact 「魂」の証明 スタイリッシュ読書会6

読書会

(AIで生成したイメージ画像を使用しています。)

【この記事には、Never Let Me Go, Part 3, Chapter 22 までのネタバレを含みます。そのネタバレには、この作品における最大のネタバレが含まれます。絶対に本文でPart 3, Chapter 22 まで読み進めてから以下の記事はご覧ください。】

英語とフランス語の読書が大好き、ヒデです。

前回の記事では、スタイリッシュ英語読書会の最初の課題図書である、カズオ・イシグロの Never Let Me Go について、Part 3, Chapter 19 で語られた The Third Impact を取り上げました。

carer から、donor へ。

そのシステムから、社会の傲慢さ、おぞましさが浮き彫りとなる一方、そのシステムの中で生きるしかない Kathy 達の悲哀が一層深まっていました。

Never Let Me Go 5―The Third Impact―「A carer の真実」 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』スタイリッシュ英語読書会5
スタイリッシュ読書会最初の課題図書『Never Let Me Go』の記事5。カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』英語原書読書会の記事5。第3部第19章において語られる本作3番目の衝撃。Carerに関する真実が浮かび上がる。

今回の記事ではそれ以後を扱います。いよいよラストも間近です。

Hailsham の students たちに信じられていた deferral(延期) の噂。

「もし本当に愛し合っている二人なら、数年間、延期してもらえる。」

その噂が、Kathy, Ruth, Tommy にとって、どのような「希望」だったのか。

そして今回取り上げるのは、その希望そのものが打ち砕かれる場面です。

その圧倒的な衝撃は、Never Let Me Go を圧倒的に面白い作品にする大どんでん返しであるといえます。

僕は、これを、勝手に、The Fourth—the Final—Impact と呼びます。

しかし、この衝撃は単なるどんでん返しではありません。

衝撃の先にあるのは、「人とは何か」という問いに始まる、極めて深遠な問題提起です。

この問題提起は、カズオ・イシグロにしかなしえないユニークかつ尖鋭的なものとなっています。

これこそ、『Never Let Me Go』が世界文学として読み継がれる理由なのだと思います。

皆様も、まずは、その衝撃を、僕たち読書会のメンバー、コウキ君、タク君、ヒナさんと共に味わってください。

そのうで、その衝撃の先に広がる、答えのない深刻な問いに向き合っていきましょう。

The Fourth Impact 場面設定(第20章〜第22章)

The Third Impact のあと、Ruth はKathy に、Kathy とTommy であれば、a deferral の本当のチャンスがあったかもしれないと話します。

Kathy は、Ruth のsecond donation の後、最期のときが近づいた彼女から、Tommy のCarerになるべきことを示唆されます。

約一年後、第20章冒頭。

Kathy は third donation を終えた Tommy の carer になっていました。

二人は、Hailsham 時代から心残りとなっていた最後の希望に向けて行動します。

Madame に会いに行くこと。

Tommy が何年も描き続けてきた動物の絵を持参し、自分たちが本当に愛し合っていることを認めてもらうこと。

既に手遅れであるとはわかりつつ、それが、deferral につながる唯一の道だと信じていました。

第21章。

二人はついに Madame と再会します。

しかし、その反応はどこか噛み合いません。

Tommy が大切に抱えてきた絵を見ても、Madame は期待していたような反応を示しません。

Madame は言います。

Those pictures showed your souls.

その瞬間、車椅子に乗った Miss Emily が姿を現します。

そして第22章。

二人は、Hailsham 最大の秘密を知ることになります。

deferral は最初から存在しなかった。

Gallery が存在した理由も、

Madame が絵を集めていた理由も、

すべては、

「clone にも魂があることを社会へ証明するため」

だったのです。

Kathy は当然の疑問を口にします。

“Why did you have to prove a thing like that, Miss Emily? Did someone think we didn’t have souls?”

これに対する、次の文章で始まる長い段落、Miss Emily のHailsham に関する説明が、The Fourth Impactの場面です。

‘Whatever else, we at least saw to it that all of you in our care, you grew up in wonderful surroundings.

The Fourth Impact を初めて読んだ感想

ヒデ:最大のクライマックス

The Fourth Impact は、本作最大の衝撃だったと思います。

ここが最大のクライマックスだったことについては、多くの読者が異論ないでしょう。

それまで積み重ねられてきたすべての伏線が、一気につながる瞬間でした。

皆様の感想はいかがだったでしょうか。

コウキ:あまりにも気の毒

自分は、とにかく Kathy と Tommy が気の毒でした。

Tommy はもう third donation を終えています。

つまり、どれだけ順調でも fourth が最後になることは本人にも分かっています。

そんな人生の終わりに、

二人は最後の希望を抱いて Madame に会いに行く。

Tommy は何年も描き続けた動物の絵を持参します。

あれは単なる絵じゃない。

自分が生きた証だった。

「自分にも人生があった」

「自分にも意味があった」

そう認めてもらいたかったんです。

それなのに、

返ってきた答えは、

「そんな制度は最初からありません。」

あまりにも残酷でした。

タク:パラダイムシフト

これは衝撃でした。

僕の中では完全にパラダイムシフトが起きました。

これまで、

臓器移植。

クローン。

その二つの衝撃から、

僕は Hailsham を恐ろしい施設だと思っていました。

Madame や Miss Emily も、

冷酷な支配者だと思っていたんです。

ところが真実は逆だった。

Hailsham は、この社会では例外的に人間らしい教育を行っていた場所だった。

Madame も Miss Emily も、

むしろ clone により良い環境を与えようとした人たちだった。

つまり Hailsham は、この社会のなかでまったく恐ろしい場所ではなかった。

これまでの構図が一瞬で反転したことに鳥肌が立ちました。

ヒナ:外の世界

私も同じです。

一番驚いたのは、

外側の視点が内側からのものと全く異なっていたことでした。

これまで私たちは、

ずっと Kathy による、内側からの視点だけで世界を見ていました。

つまり clone 側から見た Hailsham、the cottages。

でもここで初めて、

普通の人間側から見た世界、すなわち外側から見た世界が語られる。

その景色が、

あまりにも違っていた。

Students にとって Hailsham はどこか窮屈な学校のように見えていました。

ところが外の世界から見ると、

Hailsham は clone に人間らしい教育を与えようとした希望の場所だった。

この視点の反転には本当に驚きました。

ヒデ:衝撃の先にある大きな疑問

皆さんがおっしゃるとおりです。

Never Let Me Go をエンターテインメント小説として読むなら、

ここはまさに「大オチ」です。

しかし、この作品が恐ろしいのは、ここが単に驚くだけの箇所ではなないことです。

その衝撃が非常に多面的であり、そこから極めて多くの疑問が生じていくことに、本作の非常な恐ろしさがあると、僕は感じています。

Cloneは人なのか

ヒデ:僕がまず最初に感じた重大な疑問がこれです。

Kathy たち clone は人なのか?

existed only to supply medical science

Shadowy objects in test tubes

などと表現されていた存在。

Miss Emily たちは、cloneを人間と同じように、感受性・知性を有する存在と証明しようとしていたと言います。

ということは、この社会において、cloneは「人間」「人」として扱われていないということでしょうか。

タク:法的にみて「人」ではあり得ません。

この世界において、Kahty たちcloneは、法的に「人」と扱われていない。

「物」として扱われているはずです。

日本もそうですが、およそ法治国家においては、権利の保護を享受する主体たる「人」が法律によって、何らかのかたちで定義されているはずです。

法律上権利主体である「人」が、自らの意思に関係なく、臓器を他人に提供することを生まれたときから決定されているなどということは、民主主義社会においては考えられません。

人であれば、

自己決定権、

人格権、

生命・身体の自由

これらが当然に認められていないとおかしい。

つまり、Kathy 達は法律的に「物」として扱われている。

「物」としての取り扱い方が法律によって厳密に定められている。

それが、この世界における clone の実態のはずです。

ヒナ:医学的にみて「人」でしかあり得ません。

Cloneは、普通の人間と完全に遺伝情報が一緒のはずであり、生物学的・医学的にみて、「人」以外のなにものでもあり得ません。

完全に生物として一緒だから臓器提供も出来るわけです。

正直、cloneと普通の人間に違いがあるとすれば、出生方法以外にはあり得ません。

ヒデ:「人」でしかあり得ないものを「人」と扱わないことによる違和感

なるほど、お二人の指摘でよくわかりました。

Miss Emily はたしかに、この社会の中にあって、いい人、権利意識の高い人、行動的な人だったのでしょう。

しかし、なぜか、僕はThe Fourth Impact を読んだ際に嫌悪感を抱かずにはいられなかったのです。

「Miss Emily がイイ人でよかったな」

「Hailsham がイイ場所でよかったな」

とは、まったく感じなかったのです。

その原因が、これです。

Miss Emily が良かれと思ってやっていたことが、結局、あまりにも傲慢な前提に立っていたのです。

彼女は、いわゆる「善人」なのでしょう。イイ人のはずです。

しかし、社会のなかにおける、特にイイ人ですら、このような発想しかない。

その社会自体のもつ、傲慢さ、おぞましさが嫌悪感の正体だったのです。

まとめ

カズオ・イシグロの恐ろしさはここにあります。

『Never Let Me Go』は、

単なるエンターテイメント小説、クローンや臓器移植を描いたSF小説にとどまる作品ではありません。

一見すると、

静かで、

優しく、

非常に簡明で分かりやすい文章で書かれています。

しかし、その内側には、

現代社会への鋭い批判が隠されています。

社会の常識。

先例。

制度。

多数派の価値観。

私たちは、それらを理由に、

知らないうちに誰かを「人ではないもの」として扱ってはいないでしょうか。

そして、この問いは決してフィクションだけの話ではありません。

AI が急速に発展する現在、

もし人間と区別できない知性や感情を持つ存在が現れたとき、

私たちはそれを「人」と呼ぶのでしょうか。

それとも、

便利な「物」と呼ぶのでしょうか。

『Never Let Me Go』は、

読者に答えを与えません。

その代わり、

私たち自身の価値観を試す、恐ろしく切れ味の鋭い問いの切っ先を静かに突き付けてきます。

だからこそ、この作品は読み終わったあとも終わらないのです。

次回予告 結末、そして冒頭へ

ここまで四つの衝撃を検討してきました。

これで本作のもつ四つの衝撃すべてを検討してきました。

そして次回はいよいよ最終回。

Tommy の最期。

Kathy が見つめる風景。

そして、この物語は「結末」の後、「冒頭」につながります。

僕は、『Never Let Me Go』のもっともすぐれた点は、この結末から冒頭へのつながりの見事さにあると思っています。

Kathy が冒頭第一段落で語っていたこと。

Never Let Me Go 2 ―冒頭第1段落の違和感―カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』スタイリッシュ英語読書会2
スタイリッシュ読書会の最初の検討課題図書 Never Let Me Go (カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』)について、最初の議論。冒頭第一段落の有する様々な違和感。語り手の名前や経歴、donation の意味、この段落の有する雰囲気などから、カズオ・イシグロの英文の有する深みを検証。

そのすべてが、一つにつながる瞬間を、一緒に読み解いていきたいと思います。

次回、いよいよ、スタイリッシュ読書会1冊目の課題図書『Never Let Me Go』の記録が完結します。

ぜひ、カズオ・イシグロの原文で第23章末尾の結末まで読み通したうえで、この読書会の記事を最後まで見届けてください。

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