(AIが生成したイメージ画像を使用しています。)
【この記事には、英語訳『1Q84』Book 2, Chapter 7までのネタバレを含みます。】
英語とフランス語の読書が大好き、ヒデです。
前回の記事では、Book 1全体から、Book 1末尾時点において、天吾がいる世界について検討しました。

天吾は「1Q84」にいるのか、
単純な問い。
しかし、そこから導かれたのはさらなる混沌でした。
もう後戻りはできません。
僕たち読者は、Book 2を読み進めるしかないのです。
今回は、Book 2前半における青豆視点の章を検討します。
対象となるのは、次の4章。
- Chapter 1
IT WAS THE MOST BORING TOWN IN THE WORLD - Chapter 3
YOU CAN’T CHOOSE HOW YOU’RE BORN, BUT YOU CAN CHOOSE HOW YOU DIE - Chapter 5
THE VEGETARIAN CAT MEETS UP WITH THE RAT - Chapter 7
WHERE YOU ARE ABOUT TO SET FOOT
青豆に課された、
最大にして、おそらく最後となる仕事。
いよいよ物語は中盤、Book 2。
この巨大迷宮のような物語に、物語中盤で合理的な説明を与えることなど不可能です。
僕たちは、読者として、まずは、感覚的にその英文を味わい、直感的にこれを楽しみ尽くすしかありません。
そこで、今回も、話し合うのは、あくまで各自の感覚と直感。
決して「正解」を求めるものではありません。
論理的な根拠も、まったく不要。
「なんとなく」でいい。
むしろ、僕は、メンバー各自が抱いたその感覚こそを知りたい。
錚々たる読書家達がこの難解な物語とどのような感覚で向き合うのか――。
というわけで、今回も、
読書は絶対的に自由である。
各自の第一印象を絶対的に尊重する。
この方針のもと、思う存分、メンバーたちの直感を語り合ってもらいました。
ところが、同じBook 2前半の青豆視点といっても、各自の感覚には大きな違いがあったのです。
(Book 1の議論、英語訳『1Q84』読書会のコンセプトや、メンバー紹介についてはこちらの記事を参照。)

(スタイリッシュ英語読書会のコンセプトと初期メンバーの紹介はこちらを参照。)

(英語訳『1Q84』が英語多読初心者にとっていかにおすすめであるかはこちらの記事で詳しく説明しました。)

(Audibleの『1Q84』英語訳音源も非常におすすめです。)

青豆に課された「最後の大仕事」
Book 2, Chapter 1。
青豆はthe dowagerから、彼女が保護していた少女Tsubasaが忽然と姿を消したことを知らされます。
そしてthe dowagerは、青豆に告げます。
As I told you last time, we absolutely must ‘take care of’ this leader.
the dowager は、青豆に、重大な「仕事」を課そうというのです。
標的は、SakigakeのLeader。
the dowagerから語られる、Leaderをめぐるあまりにもおぞましい事実。
これまで青豆が行ってきた「仕事」と比べて、はるかに危険なものになりそうです。
相手は一人の男ではない。
その背後には、Sakigakeという得体の知れない組織が存在する。
失敗すればもちろん危険。
しかし――
成功しても危険。
青豆は、そんな仕事に向き合おうとしていたのです。
そこで今回、僕は、メンバーにこんな質問をしました。
最大にして最後の仕事へ向かう青豆について、印象に残った英文はどこですか?
コウキ:二人ともカッコいい。しかし、何かがおかしい。
コウキ:
自分が印象に残ったのは次のthe dowagerのセリフです。
このセリフから、自分は、the dowagerと青豆の両方に、ちょっとした狂気を感じました。
All you have to do is what you always do for us. Except this time, you’ll have to disappear afterward.
「いつもどおり仕事をしてくれればいい。」
「ただし今回は、そのあと消えなければならない」
というんです。
ヒデ:
青豆がこれまでこなしてきた仕事は確かに相当危険な内容であり、このような仕事を遂行してきた青豆に若干の狂気を感じるのは当然でしょう。
コウキ君は、このセリフから、さらに、the dowagerの狂気も感じるのですね。
コウキ:
はい。サラッと言ってますけど、とんでもないです。
名前を変える。
職業を変える。
これまでの生活をすべて捨てる。
そして――顔まで変える。
仕事を完遂した瞬間、それまでの青豆という人間は社会から消えなければならない。
ヒデ:
いやはや、なかなかにとんでもないですね。
もちろん、the dowagerは、青豆に多額の報酬を約束しています。
それでも、普通の感覚ではこのようなことを受け入れる人間がいるとは思えませんが……。
コウキ:
青豆はこれを躊躇なく引き受けます。
仕事人として、凄くカッコいいとは思います。
でも、さすがにおかしいです。
しかし、それ以上におかしいのがthe dowagerだと思うんです。
この仕事の危険性を完全に理解したうえで、青豆にやらせようとしている。
しかも、青豆が引き受けるであろうことをわかったうえでやらせようとしている。
たしかに、the Leader について語られた内容はあまりにもおぞましく、悲惨。
だからといって、the dowagerが、莫大なコストをかけ、青豆にこれだけのリスクを負わせてまで、実行する必要があるとは到底思えません。
the dowager こそ狂気をはらんだ危うい存在に思えるのです。
ヒデ:
言われてみると、その決然とした態度は、魅力的ではありますが、恐ろしさがありますね。
タク:銃を手にした青豆
タク:
僕は、Tamaruに銃を要求する青豆が印象的でした。
“I need a gun,” Aomame said flatly.
仕事人として、すごくカッコいい。
青豆が銃を求める理由。
それは、敵と撃ち合うためではありません。
万一、敵に捕らえられたときのため。
自分が相手の手に落ちることを防ぐためです。
つまり青豆は、この仕事を引き受けた時点で、
自分が死ぬ可能性まで、仕事の工程に組み込んでいる。
死ぬのが怖くないというより、死ぬところまで含めて準備している感じがカッコいいと思いました。
ヒデ:
淡々と、失敗した場合の自殺についてまで準備する青豆に、徹底した仕事人としてのカッコよさがありますね。
コウキ:チェーホフの銃
コウキ:
自分は、タクさんの指摘する銃と関連して、同じくChapter 1から、Tamaruが言った不吉な一言が気になります。
“According to Chekhov,” Tamaru said, rising from his chair, “once a gun appears in a story, it has to be fired.”
チェーホフの銃。
物語に銃を登場させた以上、その銃はいずれ発射されなければならない。
タク:
僕も気になります!
いわゆる、フラグってやつですよね!
これ、絶対撃つじゃないですか。
コウキ:
そうなんです。自分も、このTamaruの発言が、露骨にフラグを立てたようにしか見えない。
青豆が手にした銃。
それは本当に使われるのでしょうか。
ヒナ:「ここは物語ではない」――だから使われないこともあり得る?
ヒナ:
私も、青豆が銃を持つことにはすごく不安を感じます。でも、チェーホフの伏線があるからではないです。
ヒデ:
何か、銃にまつわる別の表現が気になるということでしょうか。
ヒナ:
はい。
私は、Tamaruによる指摘よりも、むしろ青豆自身の銃に対する内的独白の方が怖いと感じました。
Chapter 3の後半。
青豆は、自分にこう言い聞かせます。イタリックであることが青豆の内面であることを示しています。
A pistol is just a tool, and where I’m living is not a storybook world. It’s the real world, full of gaps and inconsistencies and anticlimaxes.
「ピストルはただの道具。」
「私が生きているのは物語の世界ではない。」
「矛盾もあれば、肩透かしもある。」
「ここは現実世界なのだ。」
青豆が、このように自分に言い聞かせているのです。
でも、「ここは物語じゃないから」って青豆本人が言えば言うほど、読者である私は本当にそうなの?って思ってしまうんですよ。
ヒデ:
これは面白い。
しかも僕たち読者は英語訳『1Q84』という小説を読んでいますからね。
ヒナ:
そうなんです。青豆だけが「これは物語じゃない」と思っている。
タク:
読者は村上春樹『1Q84』英語訳という物語だと知っている。
コウキ:
そしてTamaruはチェーホフを持ち出してくる。
ヒデ:
もう銃が撃たれそうな材料しかない。
ヒナ:
だから、普通に発砲する以外の、何か予想していなかった使われ方があるんじゃないかと思いました。
ヒデ:
物語の登場人物が「ここは物語ではない」と否定する。
しかし、その言葉そのものが、読者に「物語」を強烈に意識させる。
わからなくなってきました。
こういうところから、僕は、英語訳『1Q84』をまるで迷宮のように感じます。
そして、これこそが、英語訳『1Q84』の面白さだと思うのです。
マイ:最強の青豆に、一つだけ理解できないところがある
マイ:
私は、仕事をしている青豆は基本的に凄くカッコいいと思っている。
小説の主人公として、とてもユニークで魅力的なキャラクターだと思う。
その能力は、ある意味、最強だよね。
ヒデ:
そうですよね。
エンターテイメント小説的にみたとき、非常に魅力的なヒロインだと思います……。
しかし、マイさんには何かひっかかるところがある?
マイ:
ある。
青豆の男女関係、青豆の恋愛になると急に引っかかるんだよね。
だから、Chapter 5のここがすごく印象に残っている。引っかかるという意味で。
Tengo’s memory will stay with me, of course. The touch of his hand will stay. My shuddering emotion will stay. The desire to be in his arms will stay. Even if I become a completely different person, my love for Tengo can never be taken from me. That’s the biggest difference between Ayumi and me. At my core, there is not nothing. Neither is it a parched wasteland. At my core, there is love. I’ll go on loving that ten-year-old boy named Tengo forever—his strength, his intelligence, his kindness. He does not exist here, with me, but flesh that does not exist will never die, and promises unmade are never broken.
イタリックで記載されているから、青豆の内心なんだけど、ここで語られる、青豆の天吾への思いにすごく違和感がある。
青豆は、たとえ自分がまったく別の人間になったとしても、天吾への愛だけは奪われないと考えている。
「十歳のときに手を握った少年。」
「長い年月を経ても、その記憶だけは失われない。」
「自分の中心には何もないわけではない。」
「そこには愛がある。」
ヒデ:
幼いころの恋心が自分の心の中心にある――。
非常に美しい場面のようにも思うのですが……。
マイ:
いや、これ、ホントに男の妄想としか思えないんだよな。
ヒデ:
一刀両断ですね。
そういえば、マイさんは、Book 1, Chapter 5の仕事を終えた後の青豆にも大変厳しいご意見をお持ちでした。

改めまして、男性陣諸君、青豆の恋愛観に対する印象はいかがですか。
コウキ:
自分は、すごく素敵な感情だと思ったのですが……。
子供のころから、一人の男性を思い続けるって、凄くロマンチックではないでしょうか。
会えない、思いは成就しない、とわかっていても思い続ける。
こういう風に女性に慕われるって素敵だなと、ちょっと天吾に憧れます。
タク:
僕も男の視点ですけど、こういう一途な女性もいるのかな、くらいに普通に読んでいました。
ヒデ:
まあ、コウキ君、タク君のおっしゃる通り、こういった一途な側面を有する青豆は、小説の女性キャラクターとしてそれなりに魅力的ではないでしょうか。
ヒナ:
いいえ。私は、青豆のこういった側面に魅力は感じません。
青豆の能力や、行動的なところ、決断力みたいなところは大いに魅力的だと思います。
でも、こんな恋愛感情の抱き方をする女性はいません。
いるとすれば、男の空想の中だけです。
ヒデ:
これは、我々、男性陣3名、村上ワールドとともに撃沈しましたね。
マイ:
男性陣に言っておきたい。
小学校時代の恋愛をいつまでも引きずって一途に思い続ける女なんているわけないでしょ。
女性も皆いろいろな恋愛をするけど、片思いやつらい経験をしても、切り換えて前を向いていく。
そうでなければあまりにも非建設的でしょう。
ヒデ:
マイさんのおっしゃることは、非常にもっともかと思います。
たしかに、青豆の有する天吾への恋愛感情は、恋愛小説的に見たときに少し単純すぎるようにも感じられます。
幼いころの恋心に一途――。
はっきり言って、恋愛小説としては少し陳腐だと思います。
僕も、個人的に、「世界の村上」ともあろう者が、このような陳腐な恋愛設定をするのかと、少し違和感を覚えています。
ただ、青豆の恋愛感情をどう受け止めるかは読者それぞれ完全に自由です。
男性目線からは、美しい純愛として読むこともできる気がする。
女性目線からは、現実離れした執着と感じることもあり得る。
これは、あるいは、女性の内面を男性作家が構築したことによる不自然さと感じることもあるかもしれません。
しかし、だからこそ面白い。
同じ英文を読んでいるのに、読者によって見えている景色がまるで違う。
英語読書会の醍醐味は、こういう瞬間にあるのです。
(ただ、僕は、直感ではありますが、この青豆のキャラクター造形における、恋愛面の不可解さには、作者による何か重大な意図が秘められているような気がしてならないのです……。)
ヒナ:Sakigakeの「長い腕」が気になります。
ヒナ:
私は、Chapter 7。
Sakigakeのメンバーと思われる二人組、
BuzzcutとPonytail、
がとても印象にのこっています。
呼称のコミカルな雰囲気とは裏腹にその空気は非常に不穏です。
青豆の過去まで調べている。
こちらの事情を知っている。
そして彼らは、「sacred」という言葉を口にする。
Leaderとは、いったい何者なのか。
Sakigakeとは、いったいどこまで力を持っている組織なのか。
読者の不安があおられる中、Buzzcutは言います。
“We are a small religious body, but we have strong hearts and long arms,” Buzzcut said.
strong hearts and long arms.
小さな宗教団体。
しかし、強い心と長い腕を持っている。
ここは怖かったですね。
ヒデ:
“long arms”は嫌ですね。
どこまで届くのかわからない不気味さがあります。
ヒナ:
しかも、the dowagerが、仕事の後、名前も顔も変えて消えなさいと言うくらいです。
つまり、これは単なる脅し文句ではない可能性が高い。
実際、簡単には逃げることができない。
その「腕」は、青豆が逃げた先まで届くかもしれない。
ところが。
青豆の反応はこれです。
なら、その腕がどこまで長いのか試してみようじゃないか。
私は、思わず、この人、強すぎない?
と思ってしまいました。確かに、青豆のこういう面はとてもカッコいいと思います。
ヒデ:
普通、ここは怖がるところですよね。
それに正面から立ち向かおうとしている。
エンターテイメント小説のヒロインとしてこれ以上ないカッコよさではないでしょうか。
ヒナ:
そうなのです。
Book 2前半の青豆は、圧倒的に格好いい。
冷静。
合理的。
高い身体能力と、唯一無二のあの能力。
すべてを消し去る覚悟もある。
死すら恐れない。
しかし、それらの長所を一つずつ積み上げていくと、いつの間にか、
この人、本当に大丈夫なのか?
という地点に到達してしまう気がするのです。
青豆の「強さ」と「危うさ」は、もしかすると同じものの表裏なのかもしれません。
英語多読で『1Q84』を読む――「知りたい」が40万語を意識の外へ
青豆の物語が、圧倒的にスリリングな展開により、物凄い勢いで加速してきました。
この後、
青豆はLeaderに会えるのか。
Leaderはいったい何者なのか。
青豆は仕事を終えることができるのか。
そして青豆は、この仕事を終えたあと、本当に別人として生きていくことができるのか。
知りたい。先を読みたい。
このブログにあわせて英語訳『1Q84』を読み進めている読者の皆様も、
これが40万語超に及ぶ超大作であることを、
すっかり忘れてしまっている、
のではないでしょうか。
英語多読における最も強力なエンジンは、結局これなのです。
この先で何が起きるのか知りたい。
すぐれた英文学作品に出会えば、僕たちは、その英文に飲み込まれ、その波に押されるかたちで、勝手に前へ前へと進んでしまうのです。
この現象をわかりやすく体現しているのが英語訳『1Q84』なのです。
もし、まだ英語訳『1Q84』を手元に広げていないのであれば、ぜひ今すぐKindleを開いてみてください。
Book 2まで来れば、もはや語数やページ数を数えている余裕はありません。
先へ進むしかないのです――。
次回予告――不気味な男・牛河、登場
さて。
ここまで、最後にして最大の仕事へ向かう青豆を検討してきました。
青豆パートへの期待は、もう十分すぎるほど高まりました。
しかし、
ここでいったん、天吾の世界へ視点を移しましょう。
次回検討するのは、
Book 2, Chapter 2, 4, 6。
Book 2, Chapter 2では、
ついに、あの男が現れます。
牛河(Ushikawa)。
特徴的すぎる外見。
独特な話し方。
どこまで本気で、どこまで嘘なのかわからない会話。
そして何より、
この男、いったい何を知っているんだ?
という圧倒的な不気味さ。
牛河の登場によって、天吾の物語は一挙にスリリングになっていきます。
黒幕は誰なのか。
目的は何なのか。
そして、牛河は天吾について何を知っているのか。
そこで次回の質問。
牛河と関連して、Book 2, Chapter 2, 4, 6の中で、もっとも印象に残った箇所を教えてください。
牛河について、
その特徴的な外見でもいい。
言葉遣いでもいい。
天吾との会話でもいい。
「この男、嫌だな……」
と感じたところ、大歓迎です。
メンバーたちの直感的な感覚を知りたい。
青豆の前には、SakigakeのLeader。
天吾の前には、牛河。
二つの物語に、少しずつ、不気味な「相手」の輪郭が浮かび上がってきました。
そして僕たちは、もう知っています。
この世界では、
Don’t Let Appearances Fool You.
次回、
英語訳村上春樹『1Q84』8――牛河という男。天吾の世界に忍び寄る「何か」
いよいよBook 2におけるもう一つの迷宮、天吾パート、その奥へと入りこんでいきます。
(これまでの英語訳『1Q84』読書会の記事、一冊目の課題図書『Never Let Me Go』に関する記事はこちらをご覧ください。)

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