(AIが生成したイメージ画像を使用しています。)
【この記事では、英語訳『1Q84』Book 2, Chapter 9, 11 に言及します。】
英語とフランス語の読書が大好き、ヒデです。
今回も、2025年8月に実施されたスタイリッシュ英語読書会、英語訳『1Q84』第3回の議論を紹介していきます。
前回の記事では、天吾の前に姿を現した謎の男、牛河について検討しました。

牛河は何を知っているのか。そして、何を目的として天吾に接近してきたのか。
ヒナさんから示された驚くべき仮説が意味することは――。
天吾の周囲に忍び寄る不穏な気配を感じながら、今回、僕たちは再び青豆の物語へと戻ります。
今回の検討対象は、青豆の視点から語られる次の2章です。
- Chapter 9:WHAT COMES AS A PAYMENT FOR HEAVENLY GRACE
- Chapter 11:BALANCE ITSELF IS THE GOOD
ついに青豆は、自らの標的であるSakigakeのLeaderと対面します。
ところが、そこで待ち受けていたのは、僕たちが予想していたような展開ではありませんでした。
青豆が遂行しようとしている仕事の意味。
Little Peopleの正体。
善と悪。
そして、「1Q84」という世界。
これまで断片的に提示されてきた謎が、Leaderとの対話を通じて、さらに巨大な問題へと昇華していこうとしているように思えます。
すなわち、今回検討する青豆とLeaderの対面により、英語訳『1Q84』の謎が徐々に解き明かされるどころか、かえって、僕たちの理解そのものが揺さぶられることになるように思うのです。
物語はいよいよ折り返し地点。
僕たちは今、巨大な迷宮の中心部へと足を踏み入れようとしています。
もはや、論理的な理解は極めて困難――。
今回も、話し合うのは、あくまで各自の直感。
決して「正解」を求めるものではありません。
論理的な根拠も、まったく不要。
「なんとなく」でいい。
むしろ、僕は、メンバー各自が抱いたその直感にこそ頼りたい。
というわけで、今回も、
読書は絶対的に自由である。
各自の第一印象を絶対的に尊重する。
この方針のもと、思う存分、メンバーたちの直感を語り合ってもらいました。
読書会のメンバーたちの感覚を基に、Leaderが提示する重要な概念と、そこから生まれる多数の疑問を整理しておくことには、英語訳『1Q84』後半の読解に向けて、きっと大きな意味があるはずです。
Chapter 9:青豆とLeaderの対面――死へ向かっていた標的
タク:想像を超える巨体
タク:
まず、Leaderの外見が非常に印象的でした。青豆が部屋に入ると、そこには想像をはるかに超える巨体の男が待ち受けていたのです。
He was a very large man. Not fat, just large. Tall and broad and powerful looking. She had heard about his large size from the dowager, but she had not expected him to be this big.
太っているわけではない。背が高く、肩幅が広く、力強い。
青豆は事前に大柄な男だと聞いていたにもかかわらず、その実物に圧倒されます。
大男というにとどまらず、何か、神々しさのようなものまで感じ、想像以上の存在感があるという印象を受けました。
ヒデ:
しかも、太っているわけではない、単に大きいだけだと、わざわざ指摘されています。
不摂生で太ってしまったというのではない。
かといって、健康的に肉体改造して体が大きくなったというのとも明らかに違う。
何か、身体そのものが巨大な力を蓄えているような印象を受けますね。
タク:
はい。
この男の巨体に関する表現からは、それが生まれもった体ではなく、人外の力によって、こうなってしまったような印象を受けるのです。
ヒデ:
僕も、タク君と同じように感じます。
そうすると、いったい、どんな力が作用してこの巨体になったのかが疑問になりますね。
マイ:死の気配
マイ:
私は、この男の健康状態が気になる。
青豆は、相手の身体に触れ、その状態を把握することに長けている。
その青豆が、Leaderの身体について、内心で次のように感じている。
This man is diseased. I don’t know what his disease might be, but even if I don’t take steps to dispatch him right now, he will suffer intense pain as his flesh is slowly destroyed and he encounters inevitable death.
Leaderは病に侵されている。しかも、青豆が何もしなくても、やがて激しい苦痛の末に死を迎えるような状態にある。
ヒデ:
あの能力を有する青豆の言葉だからこそ、説得力がありますね。
巨大で神々しくすら見える身体の内側では、すでに破壊が進行しているわけですか。外見と内実の落差が鮮烈ですが……。
マイ:
これによって、青豆の仕事の意味が根本から揺らいじゃうんだよね。
青豆は、これまで自らの能力を用いて、女性たちを苦しめてきた男たちを葬ってきた。
今回も、the dowagerの依頼を受け、Leaderを殺すためにここへ来ている。
ところが、その標的は、すでに死に向かっている。
青豆が何もしなくても、Leaderは死ぬかもしれない。そうすると、青豆がこれから行おうとしていることには、どのような意味があるというのか。
ヒデ:
青豆の仕事は、単に標的を死なせることではありませんよね。
これまでの被害者たちのために、そして、これから生まれるかもしれない被害者たちのために、この男の暴力を終わらせるという目的があったはず。
マイ:
もし、そこに、この男の行為を罰するという側面もあるのだとすれば、このまま苦しませておいたほうが良い可能性すらある。
ヒデ:
対面して早々、青豆の行為の意味が大いに揺らいでしまいますね。
ヒナ:「あなたにしかできないことがある」――Leaderは何を知っているのか?
ヒナ:
私は、Chapter 9末尾から、Leaderの次の発言が気になります。
No, I think you can do something for me—something that only you can do.
Leaderは、自らの症状について、多くの医師や専門家であっても、どうすることもできなかったと説明したうえで、青豆にしかできないことがあると言っているのです。
これは、どういう意味なのでしょうか。
Leaderが、青豆の特殊な能力を知っている、というように感じてしまいます。
あの能力について知っている私たち読者にとっては、onlyという表現から、彼女が自分を殺しに来たことまで知っている可能性を感じてしまいます。
ヒデ:
もしそうなら、青豆の側が一方的にLeaderを狙ってきたという構図まで崩れてしまいそうです。
Leaderは青豆の能力を知っているのか。
青豆がここに来ることを予期していたのか。
Leaderとの対面によって、青豆の仕事が、当初の想定とはまるで異なる様相を呈し始め、Chapter 9が終わります。
Chapter 11:青豆が語る「愛」――崩れ行く境界
マイ:青豆はなぜ、突然「愛」を語り始めたのか?
マイ:
私は、Chapter 11に入って、なにより、青豆の発言に驚かされた。
青豆は、標的であるはずのLeaderに対し、筋肉をほぐす作業に全力で取り組む。
その後、青豆とLeaderとの間で謎めいた対話が進められていく。
truthとは何か。
spiritとは何か。
そこで、それまで冷静に作業を進めてきた青豆が、思いがけない言葉を口にする。
spiritについて尋ねられた青豆は、
“Because there is no particular need to think about it.”
と、spritについて考える必要がないと答え、
“I have love,” Aomame declared.
突然、「私には愛があります」と宣言する。
彼女はすごくpracticalに作業を進めてきたじゃないですか。
その作業にはすごく説得力があった。
それなのに、突如、こんな発言。
私は、こういうところで、突然、青豆の現実感が遠のいてしまうと感じるんだよな……。
ヒデ:
青豆にとって、「愛」は、自らの存在の根源に位置するもの、ということなのでしょうか。
マイ:
そうかもしれないんだけど、どうにも不自然に思えてならない。
何度でも言うけど、こんな思索的な対話においてさえ、青豆って、
男の妄想感
がスゴイあるんだよね。
青豆にとって、その愛が向けられているのは天吾だよね。
二人が最後に会ったのは小学生の頃でしょ。
現在の天吾がどのような人間になっているのか、青豆はほとんど知らないはず。
そんな男が存在の中心にあるなんて、現実の女性では絶対にありえない。
ヒデ:
これまでの議論に引き続き、非常に手厳しいですね。
(仕事を終えた青豆に対するマイさんの厳しい意見はこちら。)

(最大にして最後の仕事に向かう青豆に対するマイさんの厳しい意見はこちら。)

でも、確かに、ここの青豆はおかしい。
青豆自身が、そう思っていますよね。
Oh, no, what am I doing? she thought.
もはや、実は、この「愛」、青豆自身の思いではないのかとさえ思えてきます――。
いったいこれは何を意味しているのでしょうか……。
タク:Little Peopleとは何者なのか?――Leaderは「声を聴くもの」?
タク:
僕にとっては、Little Peopleについての対話も衝撃的でした。
青豆は、Leaderが語る謎の存在について、Little Peopleのことなのかと問いかけます。
Leaderの話を聞く限り、彼に特別な力を与え、その代償として苦痛を与えているのがLittle Peopleなのだと思います。
ただ、Leaderの説明をどこまで信じてよいのかは、慎重に考えたいという気がしています。
彼が本当にLittle Peopleから力を与えられているのか、それとも彼自身がそのように理解しているだけなのか。
現時点で、僕たちに判断できるとは思えません。
ヒデ:
そうですね。
しかも、Little Peopleが何を目的としているのかも、まったくわかりません。
ただ、彼らがLeaderに力を与えているのだとすれば、現実の世界に何らかの影響を及ぼす存在であることは確かなのでしょう。
そうだとすると、Little Peopleは何者なのか、という疑問だけでは足りません。
彼らがこの世界に対して何をしようとしているのか、という疑問も生まれます。
タク:「私は王ではない」――声を聴く者という役割
タク:
そして、Leaderは、自らの立場について、極めて重要に思える説明をします。
I am no king. I became one who listens to the voices.
「王ではない。〈声を聴くもの〉になった」
Leaderは、自分をそのように位置づけています。
Leaderは、自分自身が力の源泉なのではなく、何らかの存在と人間の世界をつなぐ役割を担っている、と説明しているように思われます。
ヒデ:
そう考えると、Leaderという呼び名そのものが、少し皮肉に感じられますね。人々の上に立つ指導者でありながら、本人は別の存在の声に従っているだけなのかもしれない。
タク:
ここでLeaderは、さらに驚くべきことを口にします。
I would like you to take my life.
自分の命を奪ってほしい。
Leaderは、青豆にそう告げるのです。
これは予想外でした。青豆はLeaderを殺すために来たのに、Leader自身が青豆に殺してほしいと頼んでいる。
青豆がLeaderを殺すことは、Leader自身の望みでもあるということになってしまいます。
でも、そうなると、青豆は一体、誰のために仕事をしていることになるのでしょうか。
しかも、
“The Little People would lose one who listens to their voices. I still have no successor.”
Leaderは、自分が死ねばLittle Peopleは〈声を聴くもの〉を失うことになり、後継者もまだいない、と説明しています。
ヒデ:
Leaderの死が、Little Peopleと人間の世界との関係に、何らかの変化をもたらす可能性があるということでしょうか。
つまり、青豆がLeaderを殺すことによって、Little Peopleの活動を妨げることになるのかもしれない……。
タク:
しかし、Leaderがいなくなったら、Little Peopleはどうなるのでしょうか。
そもそも、なぜ後継者がいないことが重要なのでしょうか。
Leaderが死ねば、何が起こるのか。
Leaderが生き続ければ、何が起こるのか。
ヒデ:
わからなくなってきました。
Chapter 11 時点で、僕たちが確かな答えを導けるはずがありません。
ただ一つ明らかなのは、青豆の仕事が、彼女の想像を超える意味を持ち始めているということでしょうか。
コウキ:善と悪の境界が崩れる?――『カラマーゾフの兄弟』「大審問官」
コウキ:
ここまで英語訳『1Q84』を読んできて、自分は、村上春樹が二項対立の構造を強く意識させているように感じていました。
青豆と天吾。
1984年と1Q84。
夜空の光景。
そして、現実世界と『Air Chrysalis』。
物語の至るところに、「光」と「影」のように対になるものが配置されていたように感じたのです。
ところが、ここにきてLeaderは、そうした二項対立によって世界を理解すること自体に、疑問を投げかけているように思います。
Leaderは、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を引き合いに出し、善と悪について語り始めます。
“In this world, there is no absolute good, no absolute evil,” the man said. “Good and evil are not fixed, stable entities but are continually trading places. A good may be transformed into an evil in the next second. And vice versa. Such was the way of the world that Dostoevsky depicted in The Brothers Karamazov. The most important thing is to maintain the balance between the constantly moving good and evil. If you lean too much in either direction, it becomes difficult to maintain actual morals.
善と悪は固定されたものではなく、絶えず入れ替わる可能性がある。
そして、絶えず変化する善と悪の間で、均衡を維持することが重要なのだと。
Indeed, balance itself is the good. This is what I mean when I say that I must die in order to keep things in balance.”
均衡そのものが善である。
ヒデ:
これは、なかなか難しいことを言い始めましたね。
ドストエフスキーの英語訳について、僕とコウキ君とは、現在、複数の英語訳を比較する読書会を進行させています。

そして、ここでのLeaderの言説は明らかに『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官(The Grand Inquisitor)」を意識しています。
いずれ、コウキ君とのドストエフスキー英語訳比較読書会か、このスタイリッシュ英語読書会か、どちらかで『カラマーゾフの兄弟』英語訳についてはじっくりと話し合いたいですね。
コウキ:
自分は、あいにく、『カラマーゾフの兄弟』英語訳を未読なので、「大審問官」がどのような逸話なのか簡単に教えていただきたいです。
『カラマーゾフの兄弟』「大審問官」とは?
ヒデ:
わかりました。将来、英語訳で深く検討する日を楽しみに、簡単に概要を説明してみます。
この程度の説明であれば、『カラマーゾフの兄弟』のネタバレにはならないと思いますので、未読の皆様もお付き合いください。
『カラマーゾフの兄弟』。
ドストエフスキー最後の小説。
僕は、個人的に、四大小説中の最大最高傑作だと考えています。
未完であるとの体裁ですが、まさに、その未完であるという体裁により最高傑作になっている作品だと考えています。
「大審問官(The Grand Inquisitor)」は、Part II Book Five: Pro and Contra, Chapter 5に位置づけられます。
カラマーゾフの兄弟の二男イワンが、弟である三男アリョーシャに語る、物語の中の物語です。
舞台は16世紀のスペイン、セビリア。
宗教裁判が行われている街に、キリストが姿を現します。
しかし、人々を救うはずのキリストは、教会の権力者である大審問官によって捕らえられてしまいます。
大審問官は、キリストに向かって、人間に自由を与えたことこそが間違いだったと語ります。
人間は、自由に善悪を選択することよりも、日々のパンや安心、そして自分たちを導いてくれる権威を求めている。
大審問官は、人間の幸福のためには、自由を制限し、教会が人々を支配する必要があると主張するのです。
これに対し、キリストは反論せず、最後に大審問官へ静かに接吻します。
自由と幸福。
人間を救うという目的のために、人間の自由を奪うことは許されるのか。
「大審問官」は、そうした根源的な問題を読者に突きつけます。
コウキ:Leaderは「大審問官」を通じて何を言いたかった?
コウキ:
「大審問官」の概要を伺うと、Leaderの発言が、ますます興味深くなりますね。
大審問官は、人間の自由と幸福を二項対立的にとらえ、幸福を実現するために、自由を制限することを正当化しているように見えます。
しかし、キリストは、その二項対立自体に対するアンチテーゼとなっているように見える。
Leaderもまた、善と悪という二項対立ではなく、二項対立自体に対し、「均衡を維持すること」自体が善であるとのアンチテーゼを語っているようにみえる。
ヒデ:
Leaderが言う均衡というのは、誰にとっての均衡なのでしょうか。
Leader自身にとってなのか。
Little Peopleにとってなのか。
それとも、この世界全体にとってなのか。
いやはや、僕にはまったくわからなくなってきました。
コウキ:
自分もわからなくなってきました。
さらにいうと、その均衡を維持するために、誰が犠牲になるのかという問題もあると思います。
青豆は、苦しめられてきた女性たち、被害者たちのために行動してきました。
しかし、Leaderは、自分が死ぬことによって、均衡が維持されるのだと説明します。
青豆とLeaderは、まったく異なる立場にいるようでいて、どちらも、均衡を維持することにつながっていたということなのでしょうか。
ヒデ:
本当に難しい。
迷宮の最深部に到達して完全に道に迷った感覚です。
青豆がLeaderを殺すことが善なのかどうか、
均衡を維持することにつながるのか、
Leaderの言う均衡とは、何なのか。
彼が死ぬことによって、何が維持されるのか。
そして、その均衡が崩れたとき、何が起こるのか。
青豆がLeaderに向けようとしている針の先端には、もはや、一人の人間の命だけではない、何か途方もなく大きなものがかかっているように思えてきます。
ヒナ:天吾を、なぜLeaderが知っているのか?
ヒナ:
私は、もちろん、Chapter 11の最後が気になります。
Leaderは、青豆との対話の中で、突然、天吾の名前を口にします。
“There is nothing in this world that never takes a step outside a person’s heart. And it just so happens—should I say?—that Tengo Kawana has become a figure of no little significance to us at the moment.”
Aomame was at a loss for words.
青豆にとって、天吾は、誰にも明かしていない、極めて個人的な存在だったはずです。
ところが、Leaderは、天吾が自分たちにとって重要な人物になっていることを告げるのです。
ヒデ:
これは衝撃的ですね。青豆が大切にしてきた、天吾への思い。その天吾の名前が、まさかLeaderの口から出てくるとは。
ヒナ:
青豆にとっては、自分の心の中にまでLeaderが入り込んできたような感覚なのではないでしょうか。
The man said, “But then again, chance has nothing to do with it. Your two fates did not cross through mere happenstance. The two of you set foot in this world because you were meant to enter it. And now that you have entered it, like it or not, each of you will be assigned your proper role here.”
“Set foot in this world?”
しかも、Leaderは、天吾が自分たちにとって重要な人物になっていると説明しています。天吾は、知らないうちにSakigakeやLittle Peopleと深く関わることになっているわけですね。
天吾は『Air Chrysalis』を書き直しました。その作品が、Little Peopleとどのような関係にあるのか。ここで、天吾の物語と青豆の物語が、はっきりとつながり始めたように感じます。
Leaderは、天吾が重要な人物になった理由を、単なる偶然ではないと説明しています。
青豆と天吾の運命は、偶然に交差したのではない。
二人は、この世界に入るべくして入ったのだ。
そして、この世界に足を踏み入れた以上、それぞれにふさわしい役割が与えられるのだと、Leaderは語ります。
Leaderが二人の運命をなぜ知っているのか、その知識はどこから来たのでしょうか。
Little Peopleから教えられたのでしょうか。
ヒナ:「1Q84」は青豆が作った名前のはずだった。
そして、Leaderは、二人が足を踏み入れた世界の名前を告げます。
Yes, in this year of 1Q84.
“1Q84?” Aomame said, her face greatly distorting. I made that word up!
Leaderが「1Q84」という名前を口にする。
青豆は驚愕します。
1Q84。
それは、青豆が自分の置かれた世界を理解するために、自ら考え出した名前だったはずです。
Leaderは、青豆がどのようにしてこの世界に入ったのかまで知っているのでしょうか。
ヒデ:
それとも、青豆が考えたと思っていた「1Q84」という名前が、実は、彼女だけのものではなかったのでしょうか。
ヒナ:
私は、ここで、青豆がこれまで抱いてきた世界に対する認識が、根本から変わるように感じました。
ヒデ:
どういうことでしょうか。
ヒナ:
これまで、青豆にとって1Q84は、自分が認識している世界に付けた、個人的な名前でした。
ところが、Leaderが同じ名前を知っているとなると、青豆の内面が、青豆自身にだけ存在するものではない可能性が強まります。
ヒデ:
つまり、青豆の内面が青豆だけのものではなかったということでしょうか
ヒナ:
そうです。
“There is nothing in this world that never takes a step outside a person’s heart,” Leader repeated softly.
青豆の内面が、彼女の外側にある世界とつながっている。
その境界が、ここで非常に曖昧になってしまっているように感じます。
このことは、先ほどの天吾への愛の話ともつながります。青豆の心の中にだけ存在すると思われていたものが、Leaderとの対話を通じて、外の世界へと現れてくる。
ヒデ:
天吾への愛も、1Q84という名前も、青豆の内面に存在していたものです。
それをLeaderが知っている。
いやあ、いよいよわからなくなってきたのではないでしょうか。
Leaderは、どこまでのことを知っているのでしょうか。
僕たちは、物語の核心に近づいているはずです。
しかし、近づけば近づくほど、これまで当たり前だと思っていた世界の輪郭が、少しずつ失われていくように感じます。
――境界が崩壊していく。
英語多読素材としての『1Q84』――簡単な英語で語られる、途方もなく難解な物語
今回の読書会では、英語の表現そのものについて、全く議論することがありませんでした。
英語として難しい表現が、全く登場しないのです。
もちろん、Leaderの語る哲学的な内容には、抽象的な語彙も含まれています。
しかし、英文の構造は非常に平易で、英文を読むこと自体には、全然苦労しません。
ところがです。
簡単な英語によって語られる内容が、極めて難解なのです。
英語どころではない。
世界を理解することに夢中になって、何語で読んでいるのかなどという些末な問題は雲散霧消する。
これこそ、英語多読です。
英文法や英単語などのどうでもいい問題はかなぐり捨て、英語のまま物語の世界に入り込み、登場人物たちと一緒に考え、迷い、驚く。
英語訳『1Q84』は、英文が非常に平易である一方、物語そのものには、読者を底知れぬ迷宮に引きずり込む圧倒的なパワーがあります。
英語学習していたつもりが、いつの間にかドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』「大審問官」以上の深い思索に及んでいる。
こんな贅沢な英語多読が、ほかにあるでしょうか。
英語多読におすすめ、英語訳『1Q84』。
Kindle版の英語訳『1Q84』をタッチすればわかります。
もう、英語など気にしている場合ではありません。
Leaderは、いったい何を語っているのでしょうか。
青豆と天吾には、どのような運命が待ち受けているのでしょうか。
今すぐKindleで英語訳『1Q84』を読み進めてください。
気がつけば、わからない単語をタッチする時間すら惜しくなっている自分に気づくはずです。
(英語訳『1Q84』が英語多読初心者にとっていかにおすすめであるかはこちらの記事で詳しく説明しました。)

(Audibleの『1Q84』英語訳音源も非常におすすめです。)

次回予告 天吾の内面――青豆の思い出と『The Town of Cats』
青豆とLeaderとの対話は、Chapter 13 に至って、さらに難解に、そして、さらに核心的な内容へと踏み込んでいきます。
しかし、ここで一度、青豆から離れ、天吾の物語へと視点を移しましょう。
前回の記事では、牛河という謎の男を中心に検討しました。
次回は、天吾の過去、そして、彼の内面へと迫っていきます。
検討対象は、天吾の視点から語られる、Chapter 4、そしてChapter 8。
Chapter 4では、青豆に関する天吾の思い出が語られます。
青豆が天吾を忘れられずにいるように、天吾にとってもまた、青豆は特別な存在なのでしょうか。
そして、Chapter 8では、天吾が読む小説中小説『The Town of Cats』が登場します。
猫たちが暮らす町。
そこへ迷い込んだ人間。
そして、帰るべき場所を失ってしまうという、奇妙で不気味な物語。
次回は天吾の内面に踏み込みます。
青豆が足を踏み入れた1Q84。
天吾が読む『猫の町』。
そして、二人の心の奥深くに残された、小学生の頃の記憶。
これらは、どこかでつながっているのでしょうか。
次回、英語訳村上春樹『1Q84』10 天吾の内面―青豆の思い出と『The Town of Cats』。
天吾の内面に隠された、さらなる大迷宮へ、僕たちは足を踏み入れます。
ご期待ください。
(Book 1の議論、英語訳『1Q84』読書会のコンセプトや、メンバー紹介についてはこちらの記事を参照。)

(スタイリッシュ英語読書会のコンセプトと初期メンバーの紹介はこちらを参照。)

(これまでの英語訳『1Q84』読書会の記事、一冊目の課題図書『Never Let Me Go』に関する記事はこちらをご覧ください。)

(次に読む一冊が、きっと見つかる。ヒデ厳選のコンテンツをAmazon Storeでチェック。)
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