(AIが生成したイメージ画像を使用しています。)
【この記事では、英語訳『1Q84』Book 1からBook 2, Chapter 13までの全体について、極めて重要なネタバレをします。】
英語とフランス語の読書が大好き、ヒデです。
今回も、2025年9月に実施された、スタイリッシュ英語読書会、英語訳『1Q84』第4回の議論を紹介していきます。
前回、Leaderは、天吾について非常に気になることを語りました。

he discovered his own story
天吾は『Air Chrysalis』の世界観から、
自分自身の物語を発見した。
そして天吾は現在、新しい長編小説を書いています。
では。
天吾はいったい、何を書いているのでしょうか。
もちろん、正解など僕にはわかりません。
読者それぞれが自由に想像すればいい。
読書は絶対的に自由である。
各自の第一印象を絶対的に尊重する。
これが、僕の主催する読書会におけるもっとも重要な信条です。
ですから、各自が考える、
「天吾の書いている長い小説とはこういうものだ」
という捉え方は、絶対的に尊重されるべきものです。
その大前提に立ったうえで。
今回、僕から、
英語訳『1Q84』をさらに面白く読むための提案
をしてみたいと思います。
(Book 1の議論、英語訳『1Q84』読書会のコンセプトや、メンバー紹介についてはこちらの記事を参照。)

「ヒデが静かすぎる」――メンバーたちの嫌な予感
ヒナ:
私、英語訳『1Q84』読書会が始まってからずっとモヤッとしていることがあるんです。
タク:
何でしょう。
夜空の光景や、Little Peopleについて、相当モヤッとしてましたよね?
マイ:
牛河の顔にもモヤッとしてたよね?
コウキ:
天吾の女性関係?
ヒナ:
違います。天吾の女性関係に対しては怒っているのであって、モヤッとしているわけではありません。
私がモヤッとしているのは……、
ヒデです。
ヒデ:
僕?
ヒナ:
はい。
ヒデの態度に、ものすごく嫌な予感がしているんです。
ヒデ:
どういうことでしょうか。
ヒナ:
私はヒデと『源氏物語』ウォッシュバーン英語訳読書会もやっています。

そこでのヒデは、いつもものすごく極端な意見を言って、私たちを呆れさせています。
ヒデ:
まあ、確かに、源氏の行動について、少し、うがった見方はしているかもしれませんね。
僕としては、作品を最大限面白く読むための――。
ヒナ:
極論です。
示される読み方があまりにも極端なので、私は、ヒデを「極論主義者」と呼んできました。
コウキ:
そういえば、自分もドストエフスキー英語訳比較読書会をご一緒していますが……。

『罪と罰』英語訳比較読書会におけるヒデさんの意見には、自分も、かなりビックリしました。
(『罪と罰』英語訳比較記事の続きは近日公開予定。)
タク:
Never Let Me Goのときも、ヒデさん、かなり議論を先導していましたよね。
でも『1Q84』では……。
妙に静かだった。
マイ:
そういえば!
ここまでずっと、
「皆さんはどう思いますか?」
「直感で構いません」
「自由に考えてください」
って。
自分の意見をほとんど言わなかったよね。
ヒナ:
それで気づいたんです。
私たち、もしかして嵌められた?
マイ:
ここまでヒデが設定した問いに従って、
青豆。
天吾。
夜空の光景。
Little People。
いろいろ考えてきた。
もしかして私たち――。
ヒデに転がされてた?
ヒデ:
いやいやいや、人聞きが悪いです。
皆さんを嵌めるとか、転がすとか、そんなこと全く考えていないです。
僕はただ、
あらゆる本を「一番面白く読むにはどうしたらいいか」
を考え続けているだけです。
ヒナ:
この言い方……、
絶対何かありますね。
天吾視点において直接語られる天吾の小説
Book 1, Chapter 24
ヒデ:
では。
ここからが本題です。
まず、
Book 1, Chapter 24 Tengo
WHAT’S THE POINT OF ITS BEING A WORLD THAT ISN’T HERE?
まで戻ってみましょう。
天吾は『Air Chrysalis』とは別に、自分自身の小説を書いていました。
そして、その小説について、Book 1の末尾で極めて重要なことが明らかになっていたのです。
その物語は、
“The story is about me–or about somebody modeled on me.”
天吾自身、あるいは天吾をモデルにした人物についての物語である。
さらに。
Tengo was in the process of writing a longer and more complicated story about that same world–and about himself.
『Air Chrysalis』の世界と共通する特徴を持っています。
つまり、天吾の小説の世界にも、
あの夜空
が存在する。
その夜空を目印にすることで、天吾が書いている物語の世界を認識することができる。
そして、天吾がその小説を書く目的について語った言葉。
僕はここが極めて重要だと思います。
“The point of its being a world that isn’t here is in being able to rewrite the past of the world that is here,” Tengo said.
天吾は、
「ここにはない世界」を書く意味
について考えていました。
なぜ現実とは異なる世界を書くのか。
それは――。
過去を書き換えるため。
ヒナ:
過去を書き換える……。
Book 2, Chapter 4
ヒデ:
そう。そして、
Book 2, Chapter 4 Tengo
IT MIGHT BE BETTER NOT TO WISH FOR SUCH A THING
天吾が青豆のことを思い出す章です。
青豆の記憶をたどりながら、天吾は小説によって何ができるのかを考えます。
Then he could create a future, as though he were rewriting the past.
過去を書き換えるようにして、
未来を作ることができる。
この考えを前提に、天吾は、同章末尾、小説を書き続けます。
He depicted a world in which …
マイ:
天吾は、小説を通じて、過去を書き換えようとしている……?
天吾が「書き換えたい過去」とは何なのか
ヒデ:
では、天吾の過去を形成しているものは何でしょうか。
一つは明白です。
NHKの集金人だった父。
日曜日ごとに連れ回された、陰鬱な幼少期。
天吾の人生に長い影を落としている存在です。
しかし――、
天吾はせっかく、
自分自身の新しい物語
を書いている。
そんな天吾が、わざわざ父親との陰鬱な記憶を思い出させる内容を、延々と小説にして書きたいでしょうか。
僕なら――。
嫌です。
タク:
いくら書き換えるにしても、父に言及するたびに日曜日の記憶がよみがえるわけですもんね。
せっかくの新しい小説が、苦行になってしまいそうです。
ヒデ:
そう思います。
どうせなら、自分にとってのいい思い出、大切な思い出をより良いものにすることが楽しい創作活動になるように思うのです。
そうであるとすれば――。
ヒナ:
私にも、おぼろげながら、ヒデの言おうとしていることがわかってきました。
まさか……。
青豆視点を振り返ってみる
ヒデ:
ここで一度。
天吾から離れ、青豆視点の物語を振り返ってみましょう。
Book 2, Chapter 1
まずは、Book 2最初の章です。
青豆がthe dowagerから、非常に危険な仕事を持ちかけられた章でした。
Book 2, Chapter 1 Aomame
IT WAS THE MOST BORING TOWN IN THE WORLD
同章の末尾、青豆がタマルと拳銃について話している部分を引用します。
“They’re dangerous. And illegal. And Chekhov is a writer you can trust.”
“But this is not a story. We’re talking about the real world.”
Tamaru narrowed his eyes and looked hard at Aomame. Then, slowly opening his mouth, he said, “Who knows?”
タマルがチェーホフを持ち出し、小説に登場した拳銃は必ず使われることになると言います。
しかし青豆は反論します。
これは物語ではない。現実世界の話だ。
するとタマルは青豆を見つめ、
Who knows?
と返す。
ヒナ:
このやりとり、最初に読んだときは、
青豆が、村上春樹『1Q84』英語訳という小説の登場人物であることを読者に意識させる会話
くらいに思っていました。
コウキ:
自分もです。
タマルの発言は、メタ的に言えば、
「青豆だって小説の中にいるんだよ」
という作者から読者への目配せとして読むことができていた気がしたんです。
でも……。
たしかに、それだけでのためにあえてこのタマルの発言がなされるのは不自然ですね。
あらゆる小説で、登場人物が小説の中にいることは当然であって、あえて指摘する事柄ではないですから……。
Book 2, Chapter 3
ヒデ:
さらにBook 2, Chapter 3を振り返ります。
青豆は、改めて、ピストルについて考えます。
Book 2, Chapter 3 Aomame
YOU CAN’T CHOOSE HOW YOU’RE BORN, BUT YOU CAN CHOOSE HOW YOU DIE
イタリックで表記された青豆の内的独白。
A pistol is just a tool, and where I’m living is not a storybook world.
青豆は自分に言い聞かせます。
自分が生きているのは、
storybook worldではない。
ヒナ:
これは、私も、かなり気になっていて、ピストルに何か予想外の意味があると予感していたのですが……。

ヒデ:
そうでしたね。
ところがです。
その青豆自身が、その後すぐに、次のような疑いを抱いていました。
Is this actually the real world? she asked herself. If it’s not, then where should I look for reality?
ここは本当に現実なのか。
そうでないなら、どこに現実を探せばいいのか。
Is this actually the real world?
青豆が単に村上春樹の小説『1Q84』のキャラクターというだけにはとどまらないと感じられるようになってきませんか?
小説の中のさらに別の小説の中にいるかのような感覚が生じてきませんか。
マイ:
……待って、ヒデ。
ということは、まさか。
タク:
だんだんわかってきたかもしれない。
コウキ:
自分もです。
ヒナ:
だから、私、嫌な予感がしてたんです。
極論主義者の僕、ヒデから、一つの提案があります
ヒデ:
天吾は、
自分自身をモデルにした人物についての、長い小説
を書いている。
その小説には、
『Air Chrysalis』と共通する世界の特徴
がある。
天吾は、その物語を書くことによって、
過去を書き換え、未来を作ろうとしている。
そして天吾の過去の中心には、
20年以上忘れることのできなかった一人の少女がいる。
青豆。
一方。
青豆は、自分のいる世界について繰り返し、
「これは本当に現実なのか」
と疑っている。
物語ではない。
storybook worldではない。
現実のはずだ。
でも――。
本当に?
ここまで考えて。
僕は一つの仮説にたどり着きました。
もちろん。
一読者による、一つの読み方にすぎません。
これが正解だと主張するつもりなど、毛頭ありません。
それでも。
もしこの読み方をしたら、
英語訳『1Q84』は、
とてつもなく面白くなる。
だから、あえて、意見を言わせていただきます。
天吾の書いている長い小説。それは――。
「青豆の物語」なのではないでしょうか。
そして、僕たちは、既に「青豆の物語」を読み進めています。
英語訳『1Q84』Book 1, Book 2における奇数章そのものが「天吾の書いている長い小説」だったら?
Book 1, Chapter 1。
タクシーの後部座席に座っていた青豆。
首都高速道路の非常階段を降りる青豆。
ホテルへ向かう青豆。
The dowagerと会う青豆。
仕事を行う青豆。
夜空を見上げる青豆。
1Q84という名前を世界につける青豆。
つまり。
『1Q84』の青豆。
奇数章で僕たちが読んできた「青豆の物語」。
それこそが――。
天吾が書いている長い小説だったとしたら?
メンバーたちの反応
ヒナ:
ウワッ……。
ついに。
ついに極論主義者が、その本性を現しましたね。
マイ:
ウソでしょ!?
それ、衝撃的すぎるんだけど。
いや、待って。ホント!?
そんなの極論だと思う。
思うんだけど……。
……一概に否定しきれない。
むしろ今までの場面を思い出すと、
「もしかして」
と思うところがいくつもある。
タク:
いやー。
これが極論主義者ですか。
ヒナさんが日頃ヒデさんをそう呼んでいるとは聞いていましたが。
まさか、これほどとは。
ヒナ:
……。
『源氏物語』ウォッシュバーン英語訳読書会のヒデからすれば通常運転です。
タク:
これが通常運転なんですか……(絶句)。
コウキ:
ちょっと衝撃で言葉にならないです。
でも――。
ものすごく面白い。
僭越ですが、『罪と罰』英語訳読書会のときのヒデさんを超えてきたように感じます。
ヒデ:
皆さんお判りですかね(ニヤリ)。
僕は、とにかく、洋書を、極限まで面白く読むことにしか興味がないのです。
もし「天吾の書いている長い小説」がそれなら
そして、ここからです。
僕がこの読み方を面白いと思うのは、
「実は、僕たちの読んできた青豆が天吾が書いている小説の主人公でした!」
と種明かしをして驚かせることではありません。
そんな単純な話ではない。
むしろ、ここから、
すべてが始まる。
だから面白い。
Leaderは語っていました。
青豆と天吾は同じ世界にいる。
なぜ天吾と青豆が同じ世界にいるのか。
そして――。
これまで積み重ねられてきた問い、違和感が全く異なる意味を帯び始めてきたように感じられるのではないでしょうか。
「正解」を探す必要なんてない
ここで、誤解のないように。
僕は、
「青豆の奇数章=天吾の小説」という意見を、英語訳『1Q84』読解の正解である
と主張したいわけでは、決して、ありません。
僕は、学生が英語のお勉強でやるような正解探しには、まったく興味がありません。
読者各自の違う読み方でいい。
むしろ違う読み方があって当然です。
僕たちの読書会が最初から一貫して大事にしてきたのは、
読書は絶対的に自由である。
ということ。
でも。
自由だからこそ。
こんな読み方を試してみてもいい。
「もし、青豆の章が天吾の小説だったら?」
その仮説を頭の片隅に置いて、もう一度Book 1, Chapter 1から振り返ってみる。
すると。
あのタクシーが違って見える。
ヤナーチェク『シンフォニエッタ』が違って聞こえる。
非常階段が違って見える。
青豆の描写が違って見える。
二つの月が違って見える。
そして、
There’s always only one reality.
という最初の言葉さえ。
まったく違う響きを帯びてくる。
面白い洋書の多様な読み方の可能性が見えてくる……。
それで十分ではないでしょうか。
これこそ、英語多読の面白さ
コウキ:
ヒデさんの意見を聞くと、また最初から読み返したくなりますね。
ヒデ:
それです。
それこそが僕の主催する読書会における最大の狙いです。
英語多読というと、
「一日に何語読む」
「知らない単語はどうする」
「英文法はどこまで勉強する」
そんな、極めてくだらない話になりがちです。
もちろん、学生であれば、学校の成績を上げるために、それらが役に立つこともあるのでしょう。
でも僕が英語と触れるときに圧倒的に大切だと思うのは、もっと単純なことがらです。
面白い
これです。
「青豆の章って、本当に天吾の小説なの?」
そう思ったら。
Book 1, Chapter 1へ戻りたくなる。
はやくBook 2の続きを読みたくなる。
気になった英文を探したくなる。
気がつけば何万語でも読んでいる。
英単語帳を一ページ進めたかどうかより、
物語の中にどれだけ深く潜ったか。
英語多読の楽しさは、そこにあります。
40万語が「短い」と感じられる瞬間
タク:
ヒデさんの意見に驚くとともに、英語訳『1Q84』のもつパワーのすさまじさに圧倒されてしまいました。
全体で、約40万語。
Book 2, Chapter 13までを検討した読書会において、残されたのはわずかに約20万語。
これだけとんでもない仕掛けを施した作品が、あと、たったの20万語で満足のいく着地ができるのか……。
かえって、
短すぎないか不安になってきた
のですが……。
ヒデ:
それこそ、僕が主催する読書会の、最大の効果です。
40万語は、読み始める前に、数字だけ見てしまうと、とてつもなく長く感じられる。
ところが、読書会で深い議論をしていると、
40万語という数字は、いつの間にか意味を失う。
英語を読むために物語を読むのではない。
物語の世界に入り込むために、英語という扉をくぐる。
物語が面白ければ面白いほど、語数が少ないのではと心配になる。
僕は、そこまで読者を連れて行ってくれる本こそ、英語多読に最高の一冊だと思っています。
そして英語訳『1Q84』は、まさにそういう作品です。
(英語訳『1Q84』が英語多読初心者にとっていかにおすすめであるかはこちらの記事で詳しく説明しました。)

(Audibleの『1Q84』英語訳音源も非常におすすめです。)

次回――青豆について振り返る
今回、僕から一つの読み方を提案しました。
天吾が書いている長い小説とは、「青豆の物語」なのではないか。
さらに言えば、
Book 1、Book 2で僕たちが読んできた奇数章こそ、天吾の書いた長い小説なのではないか。
もちろん、一読者による一つの仮説にすぎません。
しかし。
この仮説を持って、これまでの青豆視点の物語を振り返ると――。
驚くほど多くの場面が、別の表情を見せ始めます。
だから次回。
もう一度、最初へ戻りましょう。
1984年。
東京。
首都高速道路。
ヤナーチェク『シンフォニエッタ』
渋滞の中で止まっているタクシー。
後部座席には、一人の女性が座っています。
青豆。
しかし今度は、こう問いながら読んでみたい。
この女性を、いったい誰が書いているのだろう?
次回予告
Book 1, Chapter 1からBook 2, Chapter 13まで。
僕たちが一度通ってきた道を、
今度はまったく別の角度から見つめなおす。
次回、
英語訳村上春樹『1Q84』13 青豆――Book 1, Chapter 1から振り返る
最初に見えていた景色と、
同じ景色が見えるでしょうか。
ご期待ください。
このブログ記事へのご意見ご感想がありましたら、コメントを頂けると嬉しいです。
(スタイリッシュ英語読書会のコンセプトと初期メンバーの紹介はこちらを参照。)

(これまでの英語訳『1Q84』読書会の記事、一冊目の課題図書『Never Let Me Go』に関する記事はこちらをご覧ください。)

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